米山舞、イラストレーション×音楽で追求する新たな自己表現 Eve「YOKU」MVや存流&明透のキャラデザ制作で得た経験

米山舞、イラスト×音楽における自己表現

 近年の音楽シーンで、イラストやアニメーションをキービジュアルやMVに用いるアーティストが増加している。イラストレーションと音楽はかつてないほどに接近しており、ビジュアルの想像力はアーティストたちに新たなインスピレーションを与えているだろう。そこで、リアルサウンドでは、イラストやアニメーションは、日本の音楽シーンにどんな影響をもたらしているのか探るため、イラストレーターにインタビューを行った。

 アニメーターとして大手アニメスタジオのガイナックス、『キルラキル』などで知られるTRIGGERでキャリアを積んだイラストレーター 米山舞は、イラスト業界の最前線で活躍する傍ら、ロンドンのアートフェアに出展し高い評価を得るなど多方面でその才能を発揮している。近年はEveの「レーゾンデートル」や「YOKU」のMV、バーチャルシンガーのデザインなど音楽産業でも注目を集める才能だ。

 そんな米山氏に音楽関連の仕事に対する姿勢と、自身の創作活動のこだわりについて話を聞いた。(杉本穂高)

(MV制作は)「昔取った杵柄が半分、自己表現半分」

「YOKU」

――米山さんは、現在はイラストを中心に様々な領域で活躍されています。米山さんのようなクリエイターに色々なところからお仕事の依頼が舞い込む今の状況について、時代の変化を感じますか。

米山舞(以下、米山):そうですね。10年前と比べて(アニメ的なイラストに対する)需要は大きくなっているし、ファン層も変化していると思います。世の中への登場回数が増えたというか市民権を得たというか。

――時代の変化もありますが、近年の米山さんの仕事は本当に幅広いですね。これは意図的に増やしているんでしょうか。

米山:はい。その結果、何屋さんなのかわからなくなってきました(笑)。従来なら、アニメやマンガの絵が描けるとなると、版権関係の仕事とかキャラクターデザインなど、仕事の幅がある程度決まってしまうものでした。でも、自分がそういうものにハマるかというと、案外そうでもなかったんです。

 もちろん、いただいた仕事にはきちんと応じますが、自分はもっと広告的なものや、シンプルに絵の訴求力で勝負できる仕事がしたいと以前から考えていて、そういうことを周囲にも伝えていたので、それが実を結んできたという感じですね。

――多彩な仕事の1つとして、近年MVの仕事もされています。米山さんの中ではMVの仕事はどんな位置づけなのでしょうか。アニメーター時代の昔取った杵柄という感じでしょうか。

米山:昔取った杵柄が半分、自己表現半分という感じですね。近年のMVは自己表現的な要素が強くなってると思うんです。数人、あるいは1人でも作れる環境ができつつありますし、絵と同じでオリジナルの世界を表現する一環と感じています。

YOKU - Eve MV

――動く映像でありつつ、表現者の感覚としては、イラストなどで表現される自己表現の感覚もある仕事だということですか。

米山:おっしゃる通りです。例えばEveさんみたいなアーティストのMVの場合、当然世界観に合わせる必要はあるんですけど、アーティスト側もそのクリエイターの感性が好きだから依頼するんだと思います。アニメの仕事のようなクライアントワークも大事ですが、MVの場合は自分の表現を精一杯出した方が結果的に上手くいくと自分は判断しています。

 例えば、「YOKU」の場合、サビの前に〈無駄を愛そう〉という歌詞があります。これは“自分を好きになること”を歌っているんだなと解釈して、目線や目のカットを多くして自分が見ているものに近いものを描こうと思いました。

――監督された「YOKU」のMVの時は、曲が上がってそれから絵コンテを描かれているのですか。

米山:「YOKU」の時は特殊でした。まず、カネボウ化粧品さんから私にKATEのイラストの依頼がありました。それが全部で7種類の商品の個別イメージで、全て合わせると1つのキービジュアルになるというものだったんです。それを仕上げた後、クライアント側でCM作りをすることになり。そして、CMには楽曲が必要だねとなり、楽曲があるならMVもという企画でした(笑)。クライアントもEveさんを強く希望されていて、偶然自分も交流があったものですから、ダメ元でお願いしたら快諾してくださいました。普通は先に曲があるものだと思いますけど、この場合はタイアップに近い流れです。

――イラストが先にあったとはいえ、Eveさんの曲を聞いて改めて浮かんだイメージもありますか。

米山:もちろんあります。Eveさんは静かに内面を肯定する落ち着いた曲調に仕上げてくださったので、私はマイペースに自分を好きになることを優しく肯定するような感じの画作りにしました。最初から「レーゾンデートル」とは逆の作り方にしようと思っていましたが、あまり大きく世界観を広げすぎず、ミクロな内面世界を繊細に描く方向にしました。

――派手なアクションではなく色で心を表現する作品でしたね。制作期間はどの程度あったんですか。

米山:約4カ月くらいです。

――監督作業だけでなく原画も描いていますよね。

米山:はい。50カット以上は描いています。

――1人でそんなに描いているんですか。すごいですね。

米山:ほぼ全部ですね。この作品の進行は、アニメーションスタジオに委託しないと最初から決めていました。その理由は様々ですが、一番の理由は、MVなら自主製作的な体制でやれるので、そのメリットを生かしたいということです。その一方、動きをスムーズにする動画や色彩さんはアニメーション会社に発注して素晴らしい仕上がりにしていただきました。

 アニメ会社はまとまりもあるし、クオリティが担保されますが、時間の制約や、画作りや最終的なコントロールをそちらではないアプローチで試したくて、プロのアニメの作り方と半々ぐらいのバランスでやってみようと思いました。

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