ボカロ楽曲の人気傾向、ニコニコ動画とYouTubeでの違いは? 再生数などから徹底検証

 今やポピュラーな音楽ジャンルのひとつとして人気を得ているVOCALOID。その震源地は周知の通りニコニコ動画だが、その枠のみに留まらない。中でも近似する性質を持つ動画配信プラットフォームとして、VOCALOID楽曲の投稿・発表の場として活用されているのはYouTubeだ。

 機能の差異は多少あれど、ニコニコ動画とYouTubeはどちらもVOCALOID楽曲の広がりには欠かせないツールである。しかし興味深いのは、楽曲の人気傾向にはプラットフォームごとに明確な違いがある点だ。そこで今回はニコニコ動画とYouTubeにおいて投稿されているVOCALOID曲の再生数を調査し、その結果から見える人気楽曲の傾向や支持される楽曲の性質などについて考察してみたい。

 まず2023年5月時点のニコニコ動画再生数TOP50となるVOCALOID楽曲を並べた図がこちら。これまで圧倒的だったika「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」の再生数を、今年3月に黒うさP「千本桜」がついに上回ったことも、長年のボカロリスナーの中では直近ホットとなった話題でもある。

 またニコニコ動画関連で定期的に話題となるのは、楽曲人気のひとつの目安となる“伝説入り”“神話入り”といった再生数に応じた属性タグだ。特に1000万回再生を突破した曲に冠される“VOCALOID神話入り”タグが付与されているのは、20年を超えるVOCALOIDの歴史の中でもわずか16曲(厳密には再投稿前の元動画再生数を加味し、iroha(sasaki)「炉心融解」を17曲目として計測する場合もある)。故にこの称号に強い意義を見出しているリスナーも多く、特にwowaka、ハチ(米津玄師)をはじめとした“神話入り”曲を複数持つボカロPが長年熱い支持を得続けているのも、ニコニコ動画特有のそういった文化によるところが大きいだろう。

 こうして見ると、TOP50のラインナップはいわゆるVOCALOID最盛期とされる2010年代前半の楽曲群の勢力がまだまだ根強い。VOCALOID再評価期とも呼べる2010年代後半~末にかけての楽曲は比較的下位に固まっており、2020年代の楽曲に関しては片手で数えられるほどしかない状態となっている。

 加えてVOCALOID神話入り楽曲の数を競うハチ・wowakaのみならず、TOP50内の楽曲数を見るとDECO*27も最多曲数争いに加わってくる点も興味深い。一定の休止期間はあれど、黎明期から令和の現在までボカロPとして最前線を走り続けるDECO*27。いわゆる“ボカロらしさ”のスタンダードを創り上げた二人に負けず劣らず大きな彼の功績も、ここからは読み取れるだろう。

 一方、2023年5月時点でYouTubeでの再生数TOP50となるVOCALOID楽曲一覧がこちら。ただしYouTube上の調査については、ニコニコ動画と違い「VOCALOID」カテゴリで楽曲の一覧検索を行える方法が厳密には存在していない。そのためソフト名による手動検索で計測できた各数値を統合したのが上記の図の結果となる。往々にしてカルチャー発信地となるニコニコ動画でも一定の人気を博している曲が大半だが、集計漏れの作品が存在する可能性についても留意してもらえれば幸いだ。

 表を見ると上位5曲ですらも初音ミク楽曲がかなり少数となる中で、まず目を引くのはあまりにも圧倒的な再生数を誇るChinozo「グッバイ宣言」の存在感である。ニコニコ動画でもある程度は再生されているものの、その差は実に20倍以上。全体を通してYouTubeで多く再生数を記録する楽曲はニコニコ動画でも100万回再生を超える“伝説入り”楽曲がほとんどだが、同曲をはじめ、その上で約10倍の再生数を誇る楽曲も少なくない。中には海外を拠点に活躍するボカロPの楽曲も点在しており、ワールドワイドなYouTubeというプラットフォームならではの傾向が、VOCALOIDという音楽ジャンルひとつからも見て取れるのは非常に興味深い現象だろう。

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