GUMI×kemu=堀江晶太、IA×じん(自然の敵P)、v flower×バルーン=須田景凪……特定ソフトで“らしさ”示してきたボカロP

 様々な音声合成ソフトを用いて楽曲を制作するVOCALOIDプロデューサー、通称ボカロP。彼らはここ数年で、クリエイターとしての知名度を飛躍的に向上させてきた。大勢のボカロPが新たにキャリアをスタートさせしのぎを削る中、突出した存在となるには他との差をつける独自性が必要となる。サウンドやビジュアル面はもちろんだが、VOCALOID文化ならではの個性の確立方法として、使用する音声合成ソフトの種類もボカロPの“らしさ”を表すひとつの指針になると言っていい。長年VOCALOIDの歴史は多彩な音声合成ソフトに彩られてきた。その筆頭が初音ミクだが、彼女以外のソフトを主たる相棒とし、愛を持ってその良さを広めてきたボカロPも大勢存在している。

 さらにこれまでのシーンの歴史を紐解くと、初音ミク以外のソフトがシーンを席巻した時代も点在する。元々局所的だったVOCALOIDの世界に、こうした多様性が生まれた背景には、上記のような初音ミク以外のソフトの使用を自身の個性として確立したボカロPの影響も大きいだろう。一方で近年は、特定のソフトではなく、様々なソフトを使いこなすボカロPが増えているようにも感じる。そこで今回はこれまでのVOCALOIDの歴史の中で、初音ミク以外の音声合成ソフトを自身のアイコンとして印象づけたボカロPについて、時代の流れを追いつつ、その存在にスポットを当ててみよう。

 まずは黎明期の2000年代。この頃すでに初音ミクの他、先駆け的存在の年長組・MEIKO&KAITO、さらに鏡音リン・レン、巡音ルカといった音声合成ソフトも登場しシーンを賑わせていた。投稿作の多くが初音ミク曲でありつつ、同時にその脇を固める上記ソフトの名手とも呼ぶべきボカロPも、リスナーに根強く支持されていた時代。その一例が年長組の巧みな調整を強みとしたyanagi、仕事してP(hinayukki)だ。またotetsuも「星屑ユートピア」を筆頭に、多数の巡音ルカ曲を投稿したボカロPとして知られている。

【official】星屑ユートピア/otetsu feat.巡音ルカ

 重ねて2007年の“メルトショック(ニコニコ動画のランキング上位に「メルト」の様々なバージョンが並んだ現象)”こそあったものの、音声合成ソフトをキャラクターとして扱う風潮も色濃く残っていた。その影響が反映された事象のひとつに、“マスター”たるボカロPとソフトを主従関係とする文化がある。初音ミク以外の特定ソフトの“調教”に定評があるボカロPが、当時“伝説の○○マスター”と称されていた点にも触れたい。2010年代も度々この呼称は用いられたが、シーンの低迷とともに徐々に廃れていく。その点も含め、VOCALOIDカルチャーはある意味その性質が大きく刷新されたのかもしれない。

 そんな呼称文化の残る一方で、最盛期に突入したVOCALOIDシーンにはとある大きな変化が起こる。初音ミク以外の音声合成ソフトの台頭だ。この時期を牽引したのはMegpoid(GUMI)、そしてIA。ただし初音ミクの人気が低迷したわけではなく、この2ソフトを加えた3本柱の確立により、カルチャーが後世に語り継がれる規模まで拡大したという方が表現として正しいだろう。

 GUMIの知名度を確立した曲としてはハチ(米津玄師)やDECO*27の作品が有名だが、この時期彼女を継続して起用したボカロPとして語るべきはkemu(堀江晶太)やLast Note.、そしてYMといった面々だ。特にkemuはIAによる「六兆年と一夜物語」が絶対的な人気を誇るが、ニコニコ動画で次点の再生数を担うのは「インビジブル」「地球最後の告白を」といったGUMI曲が大半となる(「インビジブル」はGUMI・鏡音リン)。

地球最後の告白を feat.GUMI

 一方のIA曲では、じん(自然の敵P)の『カゲロウプロジェクト』シリーズによる一強時代が築かれる。起爆剤となる「カゲロウデイズ」までは初音ミクを使用しているものの、実質この曲以降の同シリーズが旋風を巻き起こした期間の楽曲はほとんどIAを使用している。今振り返ればハチ、wowaka両名がシーンから一時期離れたVOCALOID全盛期後期は、上記のGUMI、IAを用いたボカロPがカルチャーを牽引した時代であったとも言えよう。 

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