Superfly、未曾有の時代を経て投げかけるメッセージ 万人に開かれた“愛”や“エール”を音楽ライター3名が紐解く
矢島由佳子「この時代に取り戻したい“愛”とは何かを示している」
「以前は、「愛」ってもっと壮大なものだと思っていました。でも最近は、「なんて素朴で身近なものなんだろう」と感じるようになりましたね」「自分のことを忘れてしまうほど頑張ったり、自分を無視したりするのはやめようって」ーーSuperflyの越智志帆は、活動休止期間を経て『Bloom』をリリースする際のインタビューでそう語ってくれた(※2)。
当時私は会社に与えられた目標の数字や締切に追われてばかりで心身ともに疲労困憊。土鍋で炊いたご飯について「「美味しい」って思えるのは、愛情を食べているからなんだなと思うようになって」と話していた志帆とは対照的に、米粒の甘味を感じ取れる余裕すらない(※1)。そんな私にとって、「愛」の気づきについて彼女が紡ぐ言葉の一つひとつが、まるで焚き火のように心を温めてくれた。あれからもう5年も経っているのに、そのときのインタビュー部屋の雰囲気や心地よさを未だに覚えているほどだ。
Superflyの最新アルバム『Heat Wave』は、そんなSuperflyが届けてくれる音楽の中でも特に、真面目で一生懸命に生きているほど刺さる作品ではないかと思う。かつて志帆も抱えていたような強い責任感を持ち、周りの役に立てる完璧な人間でありたいと思っている人ほど、1曲目「Heat Wave」の〈ただ怖いものを遠ざけて/自分ばっかり強くなったフリして〉といった歌から自分の心の鎧を剥がされる。弱い部分や完璧ではない部分が誰しもにあるとわかっているのに自分自身のそれらは見て見ぬふりをしている、そんな自分の在り方に気づかされる上で、「情熱と癒し」のエネルギーで包み込んでくれるのがSuperflyだ。
「情熱と癒し」が今作のテーマであるが、「情熱を燃やしたいとき」と「癒しがほしいとき」という概念を言い換えると、「強さと弱さ」「戦う姿と休む姿」「かっこつけるところとかっこ悪いところ」などとも表現できると思う。「多くの人を元気づけるシンガー」や「世の中を少しでもいい方向へ動かそうとするアーティスト」などの役割をまっとうする志帆と、〈ソファーの隅に座って 冴えない自分に落胆してる〉(「Love & Peace Again!」)、〈ちゃんと 許したいんだ/こんな 惨めなプライドも〉(「Presence」)とこぼす志帆、その両面がこのアルバムの中には共存する。
それらの歌を通してSuperflyが示す「愛」とは、自分と周りにいる家族や友人の「強さと弱さ」、「戦う姿と休む姿」、「かっこつけるところとかっこ悪いところ」、その両面のあいだにあるグラデーションも含めて、全部を愛してあげようというもの。弱い部分やかっこ悪いところも労ってあげることで、強くありたいときに情熱を燃やすことができる。そんな彼女の今の生き様がそのまま一枚のアルバムを通して表現されているように感じた。
「Love & Peace Again!」「Farewell」「Power Of Hug」と続く3曲では壮大なコーラスも象徴的で(「Farewell」はアルバムラストに“Gospel Ver.”も収録)、大きな愛や癒しから、救いや祈りまでへと音楽の力が広がっていく。〈飛び込んでおいで/君は独りじゃない/この胸の中においで〉とはじまる「Power Of Hug」はタイトル通り「ハグの力」を歌っているが、Superflyの音楽にハグ同様の力があることも表しているよう。Superflyという音楽の胸の中へと招かれると、自分のかっこいいところもかっこつかないところも全部抱きしめてもらえて、そして心身の強張りが解けていく。
今のSuperflyの放つ音楽は、その声色、ビブラート、息のニュアンスなど、日本が誇るボーカリストとしての圧倒的な技術と越智志帆自身の生き様が絡み合って、本当の強さやこの時代に取り戻したい愛とは何かを示しハグしてくれる、そんな偉大なパワーが帯びている。