Superfly、未曾有の時代を経て投げかけるメッセージ 万人に開かれた“愛”や“エール”を音楽ライター3名が紐解く

Superfly『Heat Wave』クロスレビュー

 約3年4カ月ぶりとなるフルアルバム『Heat Wave』をリリースしたSuperfly。休養期間を経てリリースされた前作『0』(2019年1月)ではタイトルの通り心身をフラットな状態へと回帰したのも束の間、2020年に訪れたコロナ禍や2022年のロシア・ウクライナ戦争など、世界は混迷を極める状況となった。

 そんな世界情勢の中、Superfly自身もレコード会社の移籍や制作環境の変化、書籍出版などで激動の日々を過ごし、誕生したのが今作『Heat Wave』だ。同作には彼女らしい大きな愛で聴き手の傷を癒すような歌から、万人の背中を押すエールソング、ライフステージの変化に伴う新しい一面が感じられる楽曲が並ぶ。

 リアルサウンドでは音楽ライター・黒田隆憲、矢島由佳子、新亜希子の3氏によるクロスレビューを展開。Superflyの現在のモード、彼女が届ける“愛”や“エール”といった観点から、『Heat Wave』を通して現代に投げかけるメッセージをそれぞれの視点から紐解いてもらった。(編集部)

黒田隆憲「キャリア史上最も意欲的なアルバム」

Superfly - New Album『Heat Wave』全曲クロスフェード

 燃え盛る炎を前に、射抜くような視線でこちらを見据える越智志帆。通算7作目となるSuperflyのオリジナルアルバム『Heat Wave』のジャケット写真が強烈なインパクトを放つ。前作『0』のリリースから3年4カ月ぶりとなる本作は、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナへの武力侵攻、それらを受けて加速する社会の分断化など、この3年間で大きく変化した世界の中で、溜まりに溜まった志帆の燃えるような気持ちを爆発させた内容に仕上がっている。

 思えば『0』は、彼女自身の想像により作り出された架空の物語を歌う、タイトルどおり「ゼロ」の状態で作られた初めてのアルバムだったと以前のインタビューで話していた。それに比べると本作は、「ボイトレも再開して、自分のなかにどんどんエネルギーが溜まっていっているのを感じていた」「そのエネルギーを放出したい、次のアルバムを熱いものにしたいという気持ちに」なっていたと、公式インタビューで明かしている(※1)。

 もちろん、コロナ禍で思うようにライブができない中、レコード会社移籍や自宅スタジオの新設、新たなプロデューサーやソングライターとのコラボ、書籍出版など本人の周りで環境が目まぐるしく変化していったことも、曲作りに大きく反映されているのは間違いないだろう。

 冒頭を飾るのは、QUEENの「We Are the Champions」を彷彿とさせる力強いキックに導かれ、ヘヴィなギターリフが鳴り響くアルバムタイトル曲。〈苛立ちが燃えるあなたは 楽園で威張ってる 私に叫ぶんだ/恐れを知れ 脆さを知れ 厳しさを思い知れ〉という歌詞は、パンデミックや地球温暖化など、我々が自然をコントロールしようとした末に生じたツケについて、自戒を込めつつ自省を求めている。また、怒りとも悲しみとも取れる志帆のシャウトには、はぜる火の粉を思わせるような歪みが加えられ、この曲の持つインパクトをさらに増幅させている。

 また「春はグラデーション」は、ビッケブランカや詩羽(水曜日のカンパネラ)、塩塚モエカ(羊文学)ら6組のアーティストからなるユニットThe Yogurtsが歌う、FM802×中央大学「ACCESS!」のキャンペーンソングとして書き下ろした楽曲のセルフカバー。オリジナルはアメリカのロックバンド、Chicagoの「Saturday in the Park」を思わせる軽快なポップチューンだったが、それよりもキーを上げ、バンドサウンドを前面に打ち出したアレンジが施されている。〈春はグラデーションで だんだん街を染めてくからさ〉という歌詞は、急激な変化を求められる新社会人へ向けてのエールだが、楽曲後半のゴスペル風クワイアがそれを「多様性を尊重しよう」というより大きなメッセージへと昇華しているのが印象的だ。

 〈不安を埋めるために 繋がるだけなら もう嫌なんだ〉と伸びやかに歌い上げる、ピアノとオーケストラを主軸とした壮大なバラード「Farewell」も、後半でゴスペルクワイアを大々的にフィーチャーしている。一糸乱れぬ精緻なハーモニーではなく様々な声質が混じり合うゴスペルは、多様性と寛容性が尊重されるこの世界と非常に親和性が高い。なおこのアルバムは、「Farewell」のゴスペルアレンジバージョンで締め括られる。

 かと思えば、志帆の愛車について歌った「Mr. Cooper」は、タイトなドラムやソリッドなベース、その上でかき鳴らされるジャングリーなクランチギターが心弾むロックンロールチューン。音数を削ぎ落としたミニマルなアンサンブルと、それを最大限に活かしたデッドなサウンドプロダクションは、The Strokesを彷彿とさせる。アレンジの振り幅は前作以上に大きなアルバムだが、それでも雑多な印象を受けないのは、志帆によるシグネチャーな歌声と、それを活かすソウルフルなメロディがどの楽曲にも乗っているからだ。

 〈どうすればいいの 心が破裂しそう 行き場もなく 消えかけた声が暴れている〉〈悲しみを歌おう 何度でも叫ぼう 残酷な世界に 愛をおこして こぼせない涙 繰り返す悲劇 言いなりの私を壊すの このガラパゴスで〉と、「Voice」で歌う志帆。これまで当たり前だと思われていた価値観や常識が、大きく変化するパラダイムシフトが様々な分野で起きている日本、ひいてはこの世界で音楽に何ができるのか。Superflyとして自分に何ができるのか。本作『Heat Wave』は、その答えを歌詞のみならず歌やメロディ、サウンドで焼き付けた、志帆のキャリア史上最も意欲的なアルバムなのだ。

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