連載「lit!」第36回:Måneskin、サム・スミス、ポップカーン……音楽性の強化から歴史の継承まで、フィーチャリング曲に注目

スクリレックス, フレッド・アゲイン & フロウダン「Rumble」

Skrillex, Fred again.. & Flowdan - Rumble [Official Audio]

 なんとなくEDM系、といった印象が強いロサンゼルス出身のプロデューサーのスクリレックスだが、年始から1月末に至るまでにリリースされた4枚のシングル曲を聴く限り、その先入観にとらわれるのは賢明ではないだろう。現地時間1月1日には2枚組のアルバムリリースを予告し、その3日後にドロップされたのが今回紹介する「Rumble」である。今やUKを代表するプロデューサーであるフレッド・アゲインとUKグライムシーンで活動するラッパーのフロウダンと組んだ本楽曲は、来るニューアルバムへの期待値が跳ね上がってしまうような作品だ。ベースミュージックの旨味が全て詰まったような恐ろしく獰猛なビート、ドスの効いたフロウダンの歯切れの良いラップ、フレッド・アゲインの要素と思われる鮮やかな転調、終盤に3ループだけ差し込まれるジャージークラブ由来の高揚感溢れるキック。

 スクリレックスは今月自身の35歳の誕生日に、「2022年は人生で最も困難な1年だった」とツイートし(※2)、昨年の活動休止理由を語った。予告通りアルバムがリリースされれば、2014年のデビューアルバム『Recess』以来9年ぶりとなるスタジオアルバムになるが、完全復活したスクリレックスは確実に我々の期待を軽々飛び越えてくるに違いない。「Rumble」はそう確信させる傑作である。

ビッグ・ピッグ「Picking Up(feat. デブ・ネヴァー)」

Biig Piig - Picking Up (Official Video) ft. Deb Never

 ビッグ・ピッグの名で活動するジェシカ・スミスは、アイルランド出身でロンドンを拠点に活動するシンガー/ラッパー/プロデューサーで、アデルやHaimといったトップアーティストも輩出した企画、英BBC Radio 1の「Sound of 2023」の10組に選出されている。また、彼女はロンドンの音楽とアートのコレクティブ集団「NiNE8」のオリジナルメンバーで、英語とスペイン語を行き来する楽曲に定評があり、その活動を通して着実に評価を高めてきた。そんな彼女による初のミックステープ『Bubblegum』が1月にリリースされた。本作は一聴するとグライムスのフォロワー的な宅録インディーポップであるが、このジャンルにおいては典型的なドリーミーでサイケデリックなサウンドのみならず、トラップ以降のけたたましいハイハットやシティポップを思わせる濃密なビートまで取り入れられている。この点が特徴的で新しい。

 今回紹介する「Picking Up」は、ロサンゼルス出身で現在はロンドンを拠点に活動しているシンガーソングライター、デブ・ネヴァーをゲストに迎えたドラムンベース曲。近年ピンク・パンサレスやニア・アーカイヴスといったフレッシュな才能が次々と出てくるこのジャンルだが、本楽曲はコーラスが大袈裟なほどに強調される曲構成となっている。この曲が流れれば、そのダンスフロアは爆発的に盛り上がるに違いない。そんなアンセムたりうる力作である。

ジョン・ケイル「STORY OF BLOOD(feat. ワイズ・ブラッド)」

John Cale - STORY OF BLOOD feat. Weyes Blood (Official Video)

 オリジナルアルバムとしては実に10年ぶりとなるジョン・ケイルの最新作『MERCY』より、米カリフォルニアのシンガーソングライター、ワイズ・ブラッドことナタリー・メーリングを迎えた楽曲。アルバムは全体的に音が密に詰まっており、ロックというよりはエレクトロミュージックの趣が強い。ところどころは「メロウなトラップビート曲」とさえ言えるかもしれない。特に前半はずっしりとした電子音が常に耳を一様に圧迫するような感じがしながらも、よく耳を澄ませば微細な音の広がりを感じ取れる。ケイルとメーリングの声が立体的に配置され、上下左右至る所から聴こえてくるのだ。実際にメーリングの声が聴こえてくる箇所は多くはないが、冒頭の鍵盤やシンセの浮遊感からは、確かにワイズ・ブラッドの傑出した昨年作『And In The Darkness, Hearts Aglow』のプロダクションを思い起こさせるから不思議である。

 ケイルは今年3月に御年81歳の誕生日を迎える。The Velvet Undergroundのオリジナルメンバーとして活動してから50年余りが過ぎ、現代の先鋭的なロックミュージックは全て彼の影響下にあると言っても過言ではない。そんな彼が自分の孫のような年齢のミュージシャンらと組み、リスナーを深く考え込ませるような作品を届け続けてくれている。そこにケイルが積み上げてきた豊かな歴史の重みを感じないわけにはいかないだろう。

※1:https://realsound.jp/2022/12/post-1213787.html
※2:https://nme-jp.com/news/124860/

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