Juice=Juice、新アルバム『terzo』はグループの歴史を辿るドキュメンタリー 楽曲を通して体験する激動の3年間

05. ノクチルカ(作詞:唐沢美帆 作曲・編曲:松井寛)

 フィリーソウル的なサウンドメイキングで知られるコンポーザーの松井寛は、これまでJ=J楽曲では「生まれたてのBaby Love」「TOKYOグライダー」という2曲の編曲で参加していたが、今回も同様にソウル/ファンク/ディスコ愛好家の琴線に触れる、傑出した仕上がりを見せてくれている。さらに今回は作曲も担当しており、さり気なく転調を忍ばせたサビのメロディラインも心地よい。

 作詞の唐沢美帆は、松井と同じく「TOKYOグライダー」にも参加(その時の作曲は星部ショウだったが)。タイトルワードの「ノクチルカ」とは、歌詞中にも出てくる「夜光虫」の英語読み(noctiluca)。夜の海で青く光る海洋性プランクトンだ。

 また、サビでは〈人生のローグライク 飛び込めば 戦慄(わなな)いて かがやく ブルース〉という一節がある。ローグライクという単語を使った歌詞はなかなか新鮮だ。これはゲーム好きな人にとっては馴染みがある語句かもしれないが、ダンジョン探索型コンピューターRPG『Rogue』(イギリス、1980年発表)のゲームデザインを継承したジャンルの一種。日本では『トルネコの大冒険』『風来のシレン』などの「不思議のダンジョン」シリーズが有名だろう。ローグ系ゲームの特徴はいくつかあるのだが、一度ミスすると最初からやり直し、いわゆる“恒久的な死”が訪れるというシステムが根幹にある。そこから人生哲学のようなものを読み取ることも可能だろうし、夜光虫が光る理由なども合わせて、思索をうながす歌詞になっている。筆者個人的には本アルバムでのベスト曲である。

06. G.O.A.T.(作詞:井筒日美 作曲:Shusui / Andreas Ohrn / Henrik Smith 編曲:Henrik Smith)

 Shusuiをはじめとした作家のコライト制作による、ハウスビート風な一曲。歌の譜割りはヒップホップ的でもある。

 ハロプロ楽曲常連の作詞家・井筒日美の筆による、〈こんなご時世〉〈スクリーンショット〉〈リモート〉など、コロナ禍以降の現代社会が描写される歌詞世界。そんな中に突如飛び込んでくる〈宇宙で一番 逢いたいの!〉というストレートなフレーズが力を持って歌われる。なお、タイトルワードの「G.O.A.T.」は「the greatest of all time(史上最高の)」の略語となる英語スラング。

 また、この曲のアウトロの連続フェイクは「生まれたてのBaby Love」でのそれを連想させる。これもまたJuice=Juiceらしさ。

07. 雨の中の口笛 [工藤由愛、松永里愛、有澤一華、入江里咲、江端妃咲](作詞・作曲:Shusui / Zeyun / tsubomi  編曲:Zeyun)

 「Mon Amour」と対になるユニット曲で、こちらは工藤・松永・有澤・入江・江端の年少5人組。決して派手ではないジャジーなサウンドは、まるで古い洋画の一場面のような質感を感じさせる。「Mon Amour」でのお姉さん4人とは活動歴が違うので、歌唱力に差が出てくるのは当然といえば当然。しかしその初々しさがこの曲には適している。

 そして歌詞の〈アイアイ 相合傘 ないないないない、まだ〉という箇所は、J=Jファンならもちろん1stアルバム収録曲「愛・愛・傘」を連想するはずだ。

08. プラトニック・プラネット(Ultimate Juice Ver.) [金澤朋子、高木紗友希、宮本佳林、植村あかり、段原瑠々、稲場愛香、工藤由愛、松永里愛、井上玲音、有澤一華、入江里咲、江端妃咲](作詞:児玉雨子 作曲・編曲:炭竃智弘)

 「GIRLS BE AMBITIOUS! 2022」と同じく、この「プラトニック・プラネット」も純粋なアルバム用新曲ではない。ライブ初披露は2019年12月に代々木第一体育館で開催のコンサート『Juice=Juice Concert 2019 ~octopic!~』。その時は「Va-Va-Voom」との新曲2曲同時公開だったのだが、そちらは13thシングルで音源化されたのに対し、なぜかこちらは長らく未音源化だった。ファンにとっては待望のレコーディング音源である。

 しかし、代々木での初披露時と現在ではメンバー構成が大きく変わっている。そこで「Ultimate Juice Ver.」と銘打って、すでに卒業した金澤・高木・宮本の歌声も組み込んだのがこのバージョンだ。時空を超えた共演であり、豪華ともいえるが、チートともいえる。

 今回のニューアルバム『terzo』には、大きく3つの特徴があると筆者は考える。

 まずは、上述の各曲レビュー部分でもいくつか触れたが、解説を必要とする単語の多さだ。あまり耳馴染みのない語句を用いることでリスナーの興味を惹くというのは特に目新しい手法というわけでもないだろうが、J=Jの過去アルバム2作と比較して、今回の方が割合は多いように感じる。

 次に、過去のJ=J楽曲とのリンク/継承の多さ。これも上述レビュー部分で触れているとおり。2013年のグループ結成から数えて9年が経つことにより、“J=Jっぽい音楽性”や“J=Jっぽい歌い方”などのイメージが積み重なって形成されているのは確かだろう。

 アイドルグループのサステナビリティ(持続可能性)は、ことハロプロにおいては、先達のモーニング娘。やアンジュルムが実証し続けている。だがそこでは、“グループ名や楽曲が同じでも、構成メンバーが違っている場合、同じグループといえるのか? 続いているといえるのか?”という命題が常についてまわる。おそらくこれには答えはなく、その状況を受け入れることができるかどうか、ファン側の受容の話になるだろう。

 本稿の最初の方でも書いたとおり、J=Jの(メジャーデビュー以降の)オリジナルメンバーは5人だ。そしてディスク1はそのオリメンが一人、また一人と卒業していく過程のドキュメントともいえるし、ディスク2はオリメンが一人のみになった現在のドキュメントである、ともいえる。これが過去2作のアルバムとの違いであり、特徴の3つ目だ。

 さらにいえば、2ndアルバムにはまだかろうじて(シングル曲で)残っていたつんく♂の署名(作詞・作曲のクレジット)が、本作ではついにゼロになったという事実がある。これは“つんく♂が関わっていないハロプロはハロプロなのか?”という命題とも重なることになるが、結局のところハロプロは今も続いている。また、署名はなくとも“影響”や“イズム”という形で痕跡は残っている、ともいえるのではないだろうか。

 このスイカジュース、見た目の可愛らしさとは裏腹に、深い味わいがある。

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