ジャンルの境目を浮遊する現代のミクスチャー KroiからNIKO NIKO TAN TANまで魅力を紐解く
長谷川白紙、川谷絵音らも注目 んonnの不可思議さ
次に紹介したいのが“んonn(ふーん)”。筆者が彼らの名前を知ったのは長谷川白紙が2020年1月に開催したイベントで彼らの「Freeway」をカバーしたタイミング。その後、長谷川が歌と鍵盤楽器のみの弾き語りカバーアルバム『夢の骨が襲いかかる!』(2020年7月)にも同曲を収録していたことで知ったリスナーもいるだろう。んoon自体は実に不可思議な音楽性を持つバンドで、ネオソウル由来のシティポップと取れる部分もあれば、メンバーにハーピストが存在し、しかもノイズミュージックとして鳴らしていた時期もあり、新世代のR&Bやポップスとは言い切れない不穏さも含む部分がなんとも面白い。そのユニークさはクリエーターからも注目されている。「Freeway」「Gum」など複数のMVをメディアアーティストの谷口暁彦が手掛けており、メンバーや様々な人間や動物がアバターとなって登場する印象に残る映像だ。今年8月にリリースした3rdEP『Jargon』ではvalkneeがラップで参加した「Lobby feat.valknee」がひときわポップなファンクネスを聴かせており、同曲は川谷絵音が『スッキリ』(日本テレビ系)で紹介したことを覚えている人もいるのでは。また、「Godot」では生のハープがエレクトロミュージックとは一味違う奥行きを与えていたり、「Sniffin’」ではメロウネスとエクスペリメンタルな要素が混交。前出のHiatus KaiyoteやMoonchildに近いニュアンスもある。さらに過去にはボーカルのJCがtoeの作品やライブ、ハープのウエスユウコがTENDREの「SIGN」に参加しており、知らず知らずのうちに彼らの才能に触れている可能性も高い。
もう一組は目下、3カ月連続配信リリースの最終作「夜を彷徨う、僕の衝動」がじわじわ注目を集めているNIKO NIKO TAN TAN。バンドというより音楽担当二人と映像担当二人からなる“クリエイティブミクスチャーユニット”を自称している。ユニークなのが、4人全員で音楽とMVを同軸で作ることから自ずとジャンルがミックスされるという部分だ。作詞もミュージシャンではなく映像とアートディレクションを担当するSamson Leeが手掛けている。2020年11月に1stアルバム『微笑』をリリースし、同年12月にはVANS主催の『VANS MUSICIANS WANTED』のアジアパシフィックファイナリスト5組に選出。このときのジャッジにはアンダーソン・パークも参加していた(※1)。生音のドラムからはトライバルもジャズのテイストも感じられ、エレクトロニックな上モノには和の要素やサイケデリックなムードもあり、どこかTempalayのコラージュ感も想起させる。
まだ聴いたことのない、言葉で言い尽くせないジャンルの隙間を行くバンド/アーティストたち。時代の趨勢ももちろんだが、作り出している人間同士の化学反応こそがユニークネスの源泉であることも覚えておきたい。
(※1)https://www.vansjapan.com/new-arrivals/event/vans-musicians-wanted.html