Kroi、喜びと快楽が連鎖しながら最高の沸点へ ツアー『凹凸』追加公演で過ごしたかけがえのない時間

Kroi『凹凸』追加公演レポ

 この日、ステージ上で内田怜央(Vo/Gt)は自分たちのことを「Kroiちゃん」と呼び続けていた。「ちゃん」付けとは、なんとも気が抜けている。しかし、その気の抜けたような振る舞いは、ステージ上でも余計な鎧はまとわず、常に自然であろうとする、Kroiというバンドのしなやかな美学を感じさせるものでもあった。8月27日、東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催された1stフルアルバム『LENS』のリリースツアー『凹凸(オウトツ)』の追加公演。このツアータイトルはもちろん、『LENS』というアルバムタイトルに由来しているのだろう。光を集める働きを持つ凸レンズと、光を放つ働きを持つ凹レンズ。すなわち、収束と拡散。今勢いに乗るKroiが、ひとつの季節の終わりと新たな季節の始まりを告げるのにピッタリのタイトルである。

 ステージには、「HORN」や「shift command」、「Balmy Life」をはじめとしたミュージックビデオで監督を務め、これまでのライブでもステージセットも手掛けてきた映像作家・新保拓人によるテトリスをモチーフにしたセットが組まれている。『凹凸』というツアータイトルから連想されたのだろうが、その、ちょっとサイケでシュールなポップさと、イメージからイメージへと連鎖し拡張されていく世界観が、とてもKroiらしい。ちなみに、この日の公演では前回のツアー『DUEL』WWW X公演でも飾られていたという、Kroiのメンバーが何故か家族写真を模して映っている写真を用いたジグソーパズルが物販で販売されていた。それも『凹凸』に由来しているのだろうか? ぜひ調べて写真を見てみてほしいが、このパズルは「意地でもふざけてやる!」くらいの気合を感じるもので、そういうユーモアを手放さないところもまた、Kroiらしい。

 彼らの1stフルアルバム『LENS』には、この混沌とした時代を生きる若者としての皮膚感覚――疲弊も、惑いも、労働も、狂気も、幻想も、笑いも、喜びも――が、軟体動物のように曲ごとに印象を変えていく不思議な曲調や音像のなかに、リアルに刻まれていた。そこには、じわじわと身を蝕む痛みもたしかにあったが、しかし、絶望感や悲壮感に着地することはなかった。アルバムの最後に収められた、1分ちょっとの名曲「feeling」で歌われる〈コート脱いでくつろぐ支度を/隠れて実践する毎日から離れて/ずっと新鮮な空気をあなたと/もっと真剣に見つめる〉という言葉が指し示すように、『LENS』には、近い未来に「新鮮な空気」をあなたと一緒に吸い込むための祈りにも似たなにかが、アルバム全体に浸透していた。ただでさえマスク越しで息苦しいこの時代だからこそ、「新鮮な空気」を求めて鳴り響く音楽――Kroiにとって、音楽はあくまでも未来への希望に満ちた甘美なものなのだ。

 この日のライブでは、そうしたKroiが放つポジティブなエネルギーが会場中に濃密に充満していた。フロアにTristanの「Perfect Girl」が流れる中、ステージに上がった5人。1曲目の「dart」が始まるや否や、声出し禁止ながら観客から手拍子が巻き起こり、空間全体がグルーブを生み出し始める。続けて「Mr. Foundation」、そして、『LENS』の1曲目を飾っていた「Balmy Life」へ。野性的な歌声を響かせながら同時にパーカッションも叩き、存在そのものが「響き」まくる内田。関将典による力強いベースプレイはバンドの屋台骨でありながら、同時に前面に躍り出てアンサンブルをぐいぐいと引っ張っていく存在感がある。益田英知によるドラムも、決して「リズムを刻む」という役割だけに終始しない、その間合いも含めて自由に歌いまくっているようなドラミングだ。ファンキーなカッティングもブルージーなソロも、全身を使って奏でて魅せるギターの長谷部悠生。そして、音源制作ではミックスも担当するキーボードの千葉大樹は、魔法使いのように様々な音色を奏でながら、楽曲の「音」だけでなく「色」や「匂い」までも拡張していく。それぞれがそれぞれのパートに機能的にすっぽりとハマっているというよりは、各々が自由に遊びまくっていたらいつの間にかパーティーになっていた、という雰囲気をステージ上のKroiからは感じるが、そんな彼らのフリーキーな雰囲気は、曲が進むに従ってどんどんとフロアを巻き込んでいく。

 以前、私が彼らに取材をしたとき、内田は、自分たちの楽曲にはデモ段階から「デカいパーティーよりも、仲のいい友達数人と、こじんまりとしたスペースで夜を明かすような感覚」があると語っていた。しかし、本気の熱は伝播するものだ。いつしか、その「こじんまりとしたパーティー」は観客も「当事者」となり、そして、喜びと快楽は人から人へと連鎖しながら、いつの間にか最高の沸点を全体で共有していく。そんな「密室感ゆえに生まれるダイナミズム」を、Kroiのライブは今、生み出している。

 中盤の「Monster Play」では、ドラムとボーカルが入れ替わり、益田がギターを、内田がドラムを担当するという一幕も。やんちゃな遊び心と、お互いのパートに対する理解がバンド内にあることを実感させられる場面だった。そんな「Monster Play」が終わると、唐突にギターの長谷部が「ちょっとトイレ」と舞台袖に去っていく。何事かと思ったが、そのまま長谷部抜きでインストジャム曲「ichijiku」へ。「え、このまま進むの?」と思いきや、トイレに行ったはずの長谷部がマイケル・ジャクソンのコスプレでステージに帰還、そのままバンドが演奏する「Smooth Criminal」に合わせて見事に踊って見せるという(長谷部のダンスは異様に上手かった……)、やはり「意地でもふざけてやる!」というKroiのスタンスを実感させられるシーンも。こうしてふざけまくっていると下手したら身内ノリに終始してしまいそうなものだが、そこはメンバーの人柄だろうか、柔らかな空気感が誰をも疎外しない。その独特な風通しのよさもKroiの魅力だろう。



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