millennium parade「U」で更新された真骨頂 『竜とそばかすの姫』にも通ずる“人間の根源的なテーマ”とは?
7月16日に公開された細田守監督のアニメーション映画『⻯とそばかすの姫』。劇場版『デジモンアドベンチャー』や『サマーウォーズ』でインターネットの世界を舞台に物語を紡いできた細田が、2021年の今、改めてネット上の仮想空間で繰り広げられる冒険を描いた長編作品だ。その『⻯とそばかすの姫』のメインテーマとして作られたのが、7月12日に配信スタートしたmillennium paradeの新曲「U」である。細田からの「どうしても常田さんに音楽を作ってほしかった」(※1)という熱いオファーに、もともと細田作品のファンだったという常田大希が応える形で実現したコラボレーション。実を言えば最初にこのタッグの話を聞いたときには少しだけ意外な感じもした。ファンタジックな細田ワールドと、未来的でどこかダークなmillennium paradeの世界観の間にギャップがあるように感じたからだ。
でも、よくよく考えれば、細田はアニメーションを通して常にデジタルとリアルの間に生きる現代の人間の姿を浮かび上がらせてきたし、そこにある問題や未来像を形にし続けてきた作家である。一方、millennium paradeは言うまでもなく、寓話的/宗教的な物語とサイバーパンクなムードを背景に、人間の生命や愛といった根源的なテーマに挑んできたアーティストだ。とても深いところで、両者の表現には相通じるものがあると言える。
そして届いた楽曲「U」。まだ映画そのものを観たわけではないので、コラボレーションという意味ではそのポテンシャルの50%しか認識できていないことになるのだが、ひとつだけ言えることは、この曲をメインテーマとして放り込んできた常田も、それをど真ん中に構えたミットでがっちり受け止めた細田も、やはり半端ではないということだ。楽曲としての生命力、躍動感、そしてドラマティックなエモーションの奔流。これまでのmillennium paradeとは明らかに違うエネルギーがそこにはたぎっていた。常田は今回のコラボに際し「細田監督から『竜とそばかすの姫』のスケッチを見せていただいた時、その世界で鳴り響く音が自然と湧き出てきたのを覚えています」(※2)とのコメントを寄せているが、「U」(この曲名は作中に登場する超巨大インターネット空間の名前だ)はまさに、肉体ごと作品で描かれる世界にダイブして生み出された、仮想世界のアンセムである。
打ち鳴らされるマーチングドラム、ティンパニやマリンバといったオーケストラ楽器のスケール感、野性的なリズムを感じさせるデジタルビート……まるで未来の民族音楽のような音像と演奏のテンション感もさることながら、この曲を語る上で最も重要なのは、そのメロディと言葉をなぞる「声」だろう。millennium paradeのボーカルといえば、これまでは常田自身とermhoi(Black Boboi)、最近では井口理(King Gnu)あたりが思い起こされるが、この楽曲を歌っているのはその中の誰でもない。複雑なリズムを乗りこなしつつ、叫びのような歌を披露しているのは、声優初挑戦にして映画の主人公・すず/ベルを演じている中村佳穂その人である。彼女が声優をやるのも驚きだったが、こうしてmillennium paradeの曲で歌う声を聴くことになるとは。この映画がなければ絶対に(とは言い切れないが)生まれなかったコラボレーションという意味では、運命的なものすら感じる。