ブレッド&バター、大瀧詠一、古家杏子から林哲司まで ディープな選曲によるシティポップコンピ『Pacific Breeze 2』評

 これまでに挙げたレア度の高い楽曲に耳が行きがちな『Pacific Breeze 2』だが、実際には王道のシティポップサウンドもしっかりとセレクトされている。なかでも林哲司関連作品は本作の核のひとつといえるだろう。林哲司は主に竹内まりや、稲垣潤一、杉山清貴&オメガトライブなどの楽曲を手掛けてきた作曲家として知られており、80年代シティポップのキーパーソンのひとり。自身でもボーカルアルバムを発表しており、ここでもシンセサイザーを効果的に使ったアーバンテイストの「左胸の星座」を聴くことができる。

林哲司「左胸の星座」

 また、アイドル歌謡とアーバンブギーが合体した菊池桃子の「ブラインド・カーヴ」や、メロウグルーブとして以前からDJの人気も高い大橋純子&美乃家セントラル・ステイションの「レイニー・サタデイ&コーヒー・ブレイク」も彼の手によるもの。いずれも都会派シティポップといえる傑作であり、海外のリスナーにも十分アピールできるはずだ。

菊池桃子「ブラインド・カーヴ」
大橋純子&美乃家セントラル・ステイション「レイニー・サタデイ&コーヒー・ブレイク」

 もちろん、林哲司関連作品以外も王道シティポップは選曲されている。角松敏生が詞曲を提供した杏里のメロウなミディアムバラード「Last Summer Whisper」、シティポップリバイバルや和製ブギーのムーブメントによって人気が高まった亜蘭知子の「I’m In Love」や大野えりの「Skyfire」、<Light In The Attic>で単独再発もされた山本圭右率いるPiperの軽快なインストナンバー「Hot Sand」などは、シリーズ前作に収録されていた楽曲群に比べてもかなり突っ込んだ印象があるとはいえ、サウンド的には有名曲と並べてもおかしくないナンバーばかりだ。これらの楽曲が海外の音楽ファンの耳に届くと思うと、素直に嬉しい。今回の『Pacific Breeze 2』における楽曲ラインナップを眺めていると、前述の古家杏子に代表されるレアな楽曲や、多少規格外と思える70年代初頭のサウンドを掘り起こすような状況は、ますます加速するんだろうなと思うのだ。

杏里「Last Summer Whisper」
亜蘭知子「I’m In Love」
大野えり「Skyfire」

 数年前にシティポップリバイバルの象徴として騒がれた竹内まりやの「プラスティック・ラブ」は、すっかり世界標準の楽曲となった。YouTubeやInstagramでこの曲を検索してみても、その大半は外国人の投稿に外国人がコメントしているという状況だ。こういった傾向はますます進んでいくだろうし、日本の音楽に対する偏見のない新たな国際的なムーブメントが起こる可能性もある。実際、<Light In The Attic>からは日本のフォークや環境音楽のコンピレーションもリリースされており、それぞれ高い評価を得ている。もちろん、コンピレーションだけでなく、単独アルバムのリイシューにも積極的だ。だから世界中の音楽ファンが日本の良質なポップスを発見し、既存にはなかった新たな評価を下したシティポップブームは、今後もまだまだ続くと信じたい。そのためには、既存のイメージにとらわれないシティポップ像を更新していくべきだし、やはりレアな音源や多少の規格外もどんどん取り入れて、その枠を広げていくべきだろう。その最先鋒が今回リリースされた『Pacific Breeze 2』なのだ。本作はシティポップを一過性のブームとして盛り上げるのではなく、日本の知られざる良質な音楽にリスナーを導くという、大きな意味を持つ道標になってくれるに違いない。

竹内まりや 「Plastic Love」Short ver.

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。
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