ブレッド&バター、大瀧詠一、古家杏子から林哲司まで ディープな選曲によるシティポップコンピ『Pacific Breeze 2』評

 2019年にリリースされ、世界的な日本のシティポップ・ブームを決定付けたといわれているコンピレーションアルバム『Pacific Breeze: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1976-1986』。表題の通りシティポップ、AOR、ブギーとして再評価されてきた大貫妙子、吉田美奈子、高橋幸宏などによる70年代から80年代にかけての名曲が収められた作品集だ。本作が、日本のレコード会社ではなく、サイケやフォークなどのマニアックなリイシューを手掛ける米国のレーベル<Light In The Attic>からリリースされたというのは、非常に大きな驚きであり嬉しい出来事だった。そして好評につき、第2弾である『Pacific Breeze 2: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1972-1986』も5月15日にリリースされた。

『Pacific Breeze 2: Japanese City Pop, AOR & Boogie 1972-1986』

 今作『Pacific Breeze 2』は前作以上にディープかつレア度も高い。我々日本人の音楽ファンから見ても、一筋縄では行かない掘り下げ方といってもいいだろう。まず年代が、前作では1976年から1986年の間に発表された楽曲だったのが、今作は1972年からとなっている。ここで1970年代初頭の楽曲も含めたというのはかなり大きなポイントだ。というのも、この時期の日本の音楽というとフォークやロック系が主流で、一般的にシティポップと呼ばれる洗練されたポップスはまだ登場していない。早すぎた日本のシティポップの先駆けといわれるシュガー・ベイブの『SONGS』が1975年の作品だ。

 だから、それ以前の、ブレッド&バター「ピンク・シャドウ」(1974年)と大瀧詠一「指切り」(1972年)の2曲が冒頭に収められていることから、キュレーターのこだわりと強い意志が感じられる。前者は米国ウエストコースト風のグルーヴィーなサウンドで、後者はアル・グリーンをモチーフにしたというクールなソウル。どちらもシティポップというには少しアーシーでいなたい印象だが、いずれも細野晴臣がベースを弾いているというところは共通項だ。おそらくここが選曲されたポイントなのではないだろうか。時代が多少ずれていても、細野のベースが聴こえてくればシティポップを感じるということに違いない。なお、<Light In The Attic>は細野晴臣のソロデビュー作『HOSONO HOUSE』(1973年)、細野と横尾忠則のコラボレーション作品『COCHIN MOON(コチンの月)』(1978年)、細野がプロデュースした金延幸子の『み空』(1972年)など、細野関連作品のリイシューも積極的に行っている。

ブレッド&バター「ピンク・シャドウ」

 一方、収録曲のレア度という点に関しても、『Pacific Breeze 2』は前作を遥かに上回っている。元サディスティック・ミカ・バンドの今井裕が手掛けた映画『悪魔が来りて笛を吹く』(1979年)のサントラ、元マライアのシンガーである村田有美のディープファンク「乾風」、プロデューサーとしても知られるギタリスト、鳥山雄司のエスニック・フュージョン・ナンバー「BAY/SKY PROVINCETOWN 1977」など多彩な選曲に唸らされるのは前作以上だが、最も驚いたのは古家杏子の「晴海埠頭」だ。古家はもともと乙女座というフォークデュオで活動していたシンガーソングライターで、この曲は1982年に発表したソロアルバム『冷たい水』に収められていた一曲。異様にドラムの音が重くてでかいという奇妙なミックスのアレンジと、ひんやりとした印象のメロディを淡々と歌うボーカルとのアンバランスな世界観は得も言われぬ魅力がある。ドラムを村上“ポンタ”秀一が担当しているとはいえ、シティポップでもAORでもブギーでもないこの曲をセレクトしたというのは、『Pacific Breeze 2』のバラエティ豊かな特徴を表していると同時に、手垢にまみれつつある日本のシティポップに新しい概念を与えることになりそうだ。

村田有美「乾風」
鳥山雄司「BAY/SKY PROVINCETOWN 1977」
古家杏子「晴海埠頭」

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