川谷絵音が明かす、自身の原点にある“不穏な楽曲”への関心 「音楽の好みがガラリと変わった」

川谷絵音の原点にある“不穏な楽曲”への関心

 隔週木曜日の20時21時にInterFM897でオンエアされているラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』以下、『897 Selectors』。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。7月6日の放送には、indigo la Endとゲスの極み乙女。のフロントマンを務め、DADARAYの楽曲で作詞作曲編曲を担当する川谷絵音が登場。“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介する。今回はそのプレイリストから彼の音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。

T.M.Revolutionの「HOT LIMIT」

 川谷がまず、自身のルーツとして挙げたのは、T.M.Revolutionの「HOT LIMIT」(アルバム『THE FORCE』収録)。彼は兄と姉がラジオをダビングしているカセットテープから同曲に出会い、「物心がついて、初めて音楽として意識して、もっと音楽を聴こうと思った曲」だと語った。

ゆらゆら帝国「タコ物語」

 続けて、“10代20代の節目となった曲”として挙げたのは、ゆらゆら帝国の「タコ物語」アルバム『Sweet Spot』収録。川谷が19歳のとき、五島列島にある祖父の家に墓参りへ訪れた際に流れていたCS放送が出会いのきっかけだったという。これまでオリコンのTOP10に入るような楽曲しか聴いていなかった川谷にとって、この曲のもたらす不穏さが気になって仕方なかったそうで、「この曲をきっかけに音楽の好みがガラリと変わった」と明かしてくれた。

Radiohead「Paranoid Android」

 また、もう1曲“10代20代の節目となった曲”として紹介したのは、Radiohead「Paranoid Android」(『OK Computer』収録)。彼が『OK Computer』に出会ったのは2008年、大学の軽音楽部で先輩から進められてMVを見たことがきっかけで、Radiohead自体も「20代になってから一番聴いたアーティスト」だという。川谷は楽曲の好きな部分について「ギターにフォーカスして聴いていたこともあり、ジョニー・グリーンウッドのギターですね。ギターがギターじゃなかったというか、こういう表現方法があるのかもと思った。あとトム・ヨークの声も好きなので」と語る。

 川谷自身も「『タコ物語』と『Paranoid Android』には共通点があった」と語るように、これらの楽曲は不穏な雰囲気や、複雑な構成だがメロディはシンプルでキャッチーという点があり、それは川谷の曲作りにも通ずる。また、川谷のハイトーンなファルセットとトム・ヨークの美声も、どこか重なるものを感じる。現在彼が鳴らし、歌う音楽の原点はここにあると言っても過言ではない。

The Bird And The Bee「Again & Again」

 番組中盤では、“音楽を始めてから影響を受けた曲”としてロサンゼルス出身のユニット・The Bird And The Beeの「Again & Again」(アルバム『The Bird and the Bee』収録)が紹介された。川谷はこの曲について「このサビは不穏なのにキャッチー。自分の作り方にも通じるものがあって、キャッチーだけどキャッチーじゃないというか。この曲を聴いてからそういう視点で音楽を聴くようになった」と語る。先述した原点の上にこの曲が重なって、彼のメロディーメイカーとしての才覚が研ぎ澄まされたことがわかったことは新たな発見だ。

The Reign Of Kindo「Hold Out」

 もうひとつ“音楽を始めてから影響を受けた曲”としてピックアップしたのは、ニューヨークを拠点とする5人組・The Reign Of Kindoの「Hold Out」(アルバム『Rhythm, Chord & Melody』)。川谷はindigo la endではボーカル・ギターを務めていたが、この曲を聴いて「こういうのがやりたい」と思い、ピアノを主体としたバンド、つまりゲスの極み乙女。を結成するきっかけになったという。確かにこの曲は少しロックというよりはポップスに近いもので、ジャズ風のスケールが入っていることやサビ前に転調を駆使したキメのフレーズが存在することも特徴的。また、川谷が「この曲みたいなドラムをやってみたかった」というドラムサウンドは、イントロからパワフルなタム回しでスタートし、徐々に複雑な構成へと変化する。表層の部分で最終的なアウトプットは異なるが、確かにゲスの極み乙女。の血肉となっているのが、音の端々からもしっかりと伝わってくる。

 なお、番組では彼の「人生のテーマ」と「自分にとってのヒーロー」という“100年後に残したい音楽”や、indigo la endの新作『Crying End Roll』についてのトークも行われた。本番組で語られたスタンスや情報を踏まえてアルバムを聴くことで、作品に込められたメッセージを改めて紐解くことができるはずだ。

(文=中村拓海)

■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫 
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
次回ゲスト:川谷絵音(7月6日放送)
番組ホームページ

■連載「アーティストが語る“ミュージックヒストリー”」バックナンバー
第一回:イトヲカシの「ルーツ」となっている楽曲は? 伊東歌詞太郎&宮田“レフティ”リョウが大いに語る
第二回:大塚 愛が明かす、デビュー以降の“声の変化”と転機になった洋楽ソング
第三回:藤原さくらが“アレンジの重要性”に気付いた作品とは? 「クレジットをかじりつくように見た」
第四回:MACOの音楽に影響を与えたポップス・日本語ラップの作品は? 本人が語る“意外な”ルーツ
第五回:大沢伸一が明かす、MONDO GROSSO新作にも繋がった“ニューウェーブからの影響”
第六回:Gotchが語る、Weezer楽曲の面白さ「ロックミュージックの美しい部分が全部入っている」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる