アーティストが語る“ミュージックヒストリー” 第一回:イトヲカシ
イトヲカシの「ルーツ」となっている楽曲は? 伊東歌詞太郎&宮田“レフティ”リョウが大いに語る
4月から隔週木曜日の20時~21時に時間を移し、InterFM897でオンエアがスタートするラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)は、一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する。同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化、定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。4月6日の放送には、イトヲカシの伊東歌詞太郎(Vo)と宮田“レフティ”リョウ(Ba/Gt/Key)が登場し、それぞれが“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介する。今回はそのプレイリストから彼らの音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。
まず、2人がセレクトしたのは、自身のルーツとなっている楽曲。伊東は「原点といわれたら迷わずこの曲を思い浮かべる」と前置きし、Ben E King「Stand by me」(1961年リリース・アルバム『Don't Play That Song!』収録)を挙げた。この曲を好きになったのは高校時代で、当時仲良くしていた友人と終電で遠くまであてもなく行き、夜明けまで歩くという映画『Stand by Me』らしいことを経験したという。その後、実際に友人5人と映画を観たという伊東は「最後にこの曲が流れてきて。<Darling Darling>という歌詞和訳が<友よ 友よ>となっていて、そこに僕たちは『これは友情の曲なんだ』と痺れてしまった」と、青春らしい体験を告白する一幕も。
また、音楽面については「昔からギターを弾いていたんですけど、お客さんから『どうやったらギターが上手くなりますか?』と訊かれたときにこの曲を勧める」とコメント。バレーコードもなく、シンプルな4コードで進行するこの曲は、ギター初心者にもうってつけだという。伊東にとっても「僕が人生で一番弾いて歌った曲」という「Stand by me」は、彼が作るエバーグリーンで老若男女が親しみを持てる楽曲のルーツにあると考えると納得ができる。
続いてのルーツ曲として、宮田はGreen Dayの「Basket Case」(1994年リリース・アルバム『Dookie』収録)が、「洋楽を能動的に聴くきっかけを作ってくれた」と語る。それまではSex PistolsやThe Clashをパンク好きの先輩から教えてもらっていたものの、その良さが当時は理解できなかったという宮田。だが、Green Dayを聴いたとき「なんだ、このキャッチーでカッコ良くてエネルギッシュな音楽は!」と衝撃を受け、以降はメロコアやパンクなどの音楽を掘り下げて聴くようになったそうだ。そのキャッチーさは、宮田が手がける楽曲に間違いなく活かされているといっていいだろう。
番組中盤では、「音楽を始めてから『影響を受けているな』と感じた曲」についてのトークが行なわれた。伊東はthe pillowsからの影響を挙げ、「the pillowsの音楽には何度も救われた。山中さわおさんの歌詞がめちゃくちゃいいし、尊敬している。the pillowsの曲でどれを選べと言われたら迷いますが、これを選びました」と「Funny Bunny」(1999年リリース・アルバム『HAPPY BIVOUAC』収録)を紹介。伊東はこの曲において<キミの夢が 叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ>という歌詞が最も凄みを感じるものだとし、「この歌詞には2つの意味があると思っていて、ひとつは『君の夢を叶えるなら、君が頑張らなきゃいけないんだぜ』ということ。もう一つは、夢が叶ったときに『お前、よく頑張ったな』という意味に受け取れるんです。僕にとってはとにかく尊敬する歌詞だし、こんな歌詞を書きたいなと思う」と語った。山中の書く歌詞には、格好良さとその中にある不器用さ、力強いがどこか切ない、という二面性を感じることが多く、それは伊東の書く歌詞にも共通する部分なのかもしれない。
宮田が「音楽を始めてから『影響を受けているな』と感じた曲」は、ヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」(2001年リリース・アルバム『Legally Blonde』収録)。彼が「ピアノの名イントロランキング1位だと思っている」と挙げるこの楽曲は、宮田の普段聴く音楽の中でもずっと色褪せないもののようで、「年末によく『今年は何を一番聴いたかな』と再生回数を見るんですけど、いつもこの曲が上位にあります」と、彼のベーシックな部分を作り上げた楽曲といっても過言ではないだろう。イトヲカシの楽曲においても、鍵盤を前面に押し出した煌びやかなイントロは少なくないが、それは宮田の「この曲を超えるイントロを作りたいという気持ちは強い」という気持ちが影響しているようだ。
なお、番組では彼らが語る“100年後に残したい音楽”についてのトークも行なわれており、こちらでも2人のミュージックフリークぶりが存分に発揮されているので、オンエアをお楽しみに。
(文=中村拓海)
■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
次回ゲスト:イトヲカシ(4月6日放送)
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