稲垣吾郎の”声”が与える安心感 NHK Eテレ新番組『toi-toi』で果たす役割、番組の要を担う絶妙なバランス

「“見た目”に自信ありますか?」
「あなたは“信用”されていますか?」
「わたしって、“かわいそう”?」

 そんなドキッとさせられる“問い”から始まる、NHK Eテレの福祉番組『toi-toi』。この4月からスタートしたばかりの新番組だ。冒頭の問いかけは、メラニン色素が薄く肌や髪の色が明るいアルビノ当事者や、外国ルーツの人たちを支援するNPO職員、41歳で認知症と診断された女性が、それぞれ日々の生活を通じて抱いてきた“問い”である。

 番組では、まずその“問い”がどのようにして生まれたのかを丁寧に追うロケ映像が流れる。そして、スタジオに集まった人たちと本音でクロストークを展開するのだ。そこに集まったメンバーというのが、実に彩り豊か。障がいを持つ人、薬物依存の人、LGBTQの当事者……一般的に“マイノリティー”と呼ばれるバックグラウンドを持つ出演者たちが、各々の立場から感じたことを率直な言葉で話し合う様子は、日常ではなかなか実現しにくいもの。そんなところに、改めてテレビだからできることを感じることができる。

 一方で、番組内でも話題になったように、私たちは本能的に“知らないもの”に防衛反応が働く。自分の安心、安全が脅かされるのではと恐れるほど、自分とは異なる多様な視点を受け入れる余裕がなくなる。小さな声が埋もれることなく届く時代になったが、そのぶん、思わず身構えてしまうような情報が溢れている社会にもなった気がする。ともすれば、この貴重なクロストークの場も「自分とは違う」という防御反応が先に出て、見ることもためらう人がいてもおかしくない。

 そんな同番組において、視聴者と出演者たちを結びつけているのが、ナレーション・稲垣吾郎の存在だ。制作統括の久保暢之プロデューサーは、稲垣をナレーションに起用した理由として「透明感があり、どこかの色にあまり偏らないという印象がある」と語った。また「稲垣さんのキャラクターや声には、どこにも寄り添える雰囲気があると感じている」とも。「すごく多様で濃い出演者の中で、フラットな透明感のある稲垣さんのキャラクターや声が、出演者の魅力を際立たせるにはぴったり」(※1)と考えたそう。

 この押しの強さを感じない平静さと寄り添う温かさのバランスは、それこそ当たり前にある防御反応を踏まえつつ、誰かを受け入れる勇気とも似ている気がする。そして、稲垣自身がいつも自分の美学を大切にしながらも、新しい何かを愛そうとするイメージにもリンクしているようにも思えた。

 「仙人や神様のように達観できればいいけれど、人間だし、僕だって絶対偏ってる。でも、せめて自分が関わる環境や身の回りにいる人たちには、優しくありたいと心がけています」とは、稲垣が朝日新聞の連載「地図を広げて」(4月13日)で語っていた言葉だ(※2)。

 「優しくありたいと心がけること」というのが、もしかしたらこの番組で投げかけられるさまざまな“問い”に対するベースとなる答えなのかもしれない。となると今度は、その「“優しくある”とはどういうこと?」なんて新たな“問い”も生まれそうだけれど。そうしてすぐに答えの出ない議論を始めるときには、その“問い”がどんなトーンの声で問われるかも大きく影響するように思った。

 出演者と視聴者をつなぎ、そしてみんなが穏やかな気持ちで“問い”に向き合えるように問いかける。それが稲垣に課せられたミッションだ。そんな重役とも言えるナレーションの仕事について、稲垣は先のインタビューで「好きな仕事のジャンルのひとつ」だと答えていた。

 「スタッフが作り上げたVTRに声を入れるという、最後の仕上げを任されるところにプレッシャーとやりがいがある。情報を確かに、わかりやすく視聴者に伝える作業が職人的で昔から好きなんです」と続けた稲垣。なんだかまっすぐに見つめながら語る彼の表情が目に浮かぶようだ。

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