藤原さくらが“アレンジの重要性”に気付いた作品とは? 「クレジットをかじりつくように見た」

藤原さくら、“アレンジの重要性”を語る

 4月から隔週木曜日の20時~21時に時間を移し、InterFM897でオンエアがスタートするラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。5月4日の放送には、2ndアルバム『PLAY』を5月10日にリリースする藤原さくらが登場し、“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介する。今回はそのプレイリストから彼女の音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。

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 藤原がまず、自身のルーツとして挙げたのは、トッド・ラングレンの「Hello It’s Me」(アルバム『Something/Anything?』収録)。彼女が音楽キャリアをスタートさせたのは10歳のときで、その大きな起因となったのはベーシストだった父親からの影響だ。そんな藤原の父は、The Beatlesをはじめとしたイギリスの音楽に造詣が深く、車の中では常にUKロックが鳴っていたという。この曲は彼女いわく「トッド・ラングレンを良いと思っていない時代からずっと聞いている曲で(笑)、自分で音楽をやり始めてから改めてその素晴らしさに気付いた曲」だという。

 そして藤原がもう一つのルーツとして挙げたのは、ノラ・ジョーンズ「Lonestar」(アルバム『Come Away With Me』収録)。この曲は、自身の声にコンプレックスを持っていた彼女が高校一年生のとき、ボーカルスクールの先生から「あなたの声はきっとノラ・ジョーンズが合うから、『Come Away With Me』を全曲コピーしてみなさい」と勧められて出会った1曲だという。藤原はこの作品について「それまで名前しか知らなかったんですけど、初めてアルバムを聴いたときに衝撃を受けて。歌ってみても自分のキーと合っていて歌いやすく、そこから大好きになりました」と語ったように、ノラ・ジョーンズ「Lonestar」との出会いは、藤原が“シンガーとしてのアイデンティティ”を自覚したターニングポイントとなる楽曲だ。つまり、彼女がデビュー作『à la carte』で世間に衝撃を与えた、囁くようでスモーキーな歌声は、この楽曲なくしては生まれなかったといえる。この楽曲をきっかけに、藤原は海外のシンガーソングライターや、ワールドミュージックを聴くようになり、アイルランド、北欧、フレンチポップ、アフリカ音楽など、様々な音楽の門戸を叩き、若くして多ジャンルの音楽を吸収したことが、現在のキャリアを支えているのだ。

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 そんな藤原が“10代・20代の節目となった楽曲”として語ったのは、The Beatlesの名曲「Oh! Darling」。ポール・マッカートニー好きで有名な藤原は、現在の事務所に入るためのオーディションや、主演を努めた月9ドラマ『ラヴソング』(フジテレビ系)のオーディションでも歌った“人生を左右した楽曲”。藤原は自分の中にないものとして、「シャウトする人に魅力を感じるんです。男性の高い声とか、初音ミクとか、良いなって思ったりするんですよね」と話しており、普段制作する楽曲では出てこないシャウトもこの曲では思い切り発揮できることを明かした。

 続けて「音楽を始めてから影響を受けた曲」として挙げたのは、YUI「I Remenber You」。彼女の姉が好きだったことから影響を受け、「シンガーソングライター」という言葉もYUIを通じて知り、自身もそんな存在になりたいと願ったそうだ。自分のお金で始めてCDを買ったのも、初めてライブを見に行ったのもすべてYUIだそうで、「アルバムが出たら本屋さんにコードブックを買いに行って歌ったりしていました」という心温まるエピソードも飛び出した。YUIは2010年代以降の「ギタ女」のはしりとも言える存在で、シンガーソングライターとして確固たるアイデンティティを確立。ポップな楽曲や文学性の高い叙情的な歌詞の世界感を含め、彼女に憧れて音楽を始める若者も多い。YUIもまた、映画『タイヨウのうた』でシンガーソングライター役として主演を果たすなど、藤原との共通点も少なくない。藤原が築いていくキャリアの先には、「YUIを超えられるかどうか」という壁も待ち受けるだろう。そのプレッシャーを打ち破り、さらにオリジナルな存在へと進化することを期待したい。

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 もうひとつ、直近で「彼女が音楽を始めてから影響を受けた曲」として挙げたのは、ヤエル・ナイム「Go To The River」(アルバム『She was a boy』収録)。フランス生まれ・イスラエル育ちのシンガーであるヤエル・ナイムは、藤原と同じく10代でThe Beatlesに出会い、以降ジャズとの邂逅も果たしながら、MacBook AirのCMソングで世界的なブレイクを果たした。日本でもドラマ『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)に「Go To The River」が使用されるなど、多くの人の耳に残る歌声と綿密なアレンジが施された楽曲が特徴的なアーティストだ。藤原は父とよくCDショップでジャケット買いをするそうで、そこで『She was a boy』に出会ったという。彼女はこのアルバムを初めて聴いたときの印象について「『こんなアルバムを作りたかった!』と思いました。面白い楽器をたくさん使っていたこともあり、クレジットをかじりつくように見たのもこのアルバムがきっかけですね」と、自身の楽曲制作にも大きな影響を及ぼしたことを語った。

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 藤原はデビュー以降、Yagi & Ryota(SPECIAL OTHERS)、Curly Giraffe、高田漣、mabanua、関口シンゴ、Shingo Suzuki、青柳拓次(Little Creatures)と、日本の音楽シーンを代表するプロデューサー&プレイヤーを迎え入れ、意匠を凝らしながらポップネスを獲得した1stフルアルバム『good morning』を作り上げた。そんな段階において、彼女はヤエル・ナイムのアルバムを聴いたことで「アルバム制作でディレクターさんに『この楽器を入れたい』と言うようになりましたし、こんな音をやってみたいと思ったら調べてみるようになった」と話す。もうすぐリリースとなる2ndアルバム『PLAY』では、Kan Sanoや永野亮(APOGEE)といった音楽マニアもグッとくる面々を新たに迎え入れた。日本語の歌詞が増えたことでよりポップに、しかしマニアックな音楽ファンも満足させる作品が完成した。

 なお、番組では彼女が語る“100年後に残したい音楽”や新作『PLAY』についてのトークも行なわれた。これらの楽曲やトークと『PLAY』をあわせて聴くことで、よりアルバムに至るまでの深みを体験することができるだろう。

(文=中村拓海)

 

■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫 
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
次回ゲスト:藤原さくら(5月4日放送)
番組ホームページ

■連載「アーティストが語る“ミュージックヒストリー”」バックナンバー
第一回:イトヲカシの「ルーツ」となっている楽曲は? 伊東歌詞太郎&宮田“レフティ”リョウが大いに語る
第二回:大塚 愛が明かす、デビュー以降の“声の変化”と転機になった洋楽ソング

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