北海道では“純粋”な音楽が生き残る? 地元在住ミュージシャンの動向をレポート

北の地が鳴らしてきた音

「……ここ札幌と言えば、私が大変昔から尊敬しておりますbloodthirsty butchers、そしてeastern youth。fOUL、THA BLUE HERB、そして惜しくも、これまた解散してしまったんですけどもCOWPERS。その他色んな私が影響を受けたバンドが、ここ札幌には多くいらっしゃいますね」

 2002年11月30日。札幌のライブハウス・ペニーレーン24において、Number Girlが最後のライブを行った。この言葉は、その日に向井秀徳が放ったMCである。このMCからもわかるように、北海道という土地は音楽シーンの中でも稀有な存在を生んできた場所と言ってよいだろう。現在も活動している著名なミュージシャンを挙げても、GLAY、DREAMS COME TRUEといった、いわゆる「お茶の間」に浸透しているものから、怒髪天、the pillows、サカナクションといったロックシーンを出自としたバンドまで多数。近年は、道民の音楽DNAを支えるRISING SUN ROCK FESTIVALにも北海道のレジェンド達が出演していて、昨年は安全地帯、今年は松山千春や大黒摩季などのいわゆる大御所が出演し、オーディエンスを盛り上げていた。

 時は2016年。私事だが、筆者は昨年より日本の中心・東京で音楽に関わる立場から、故郷である北海道・札幌に戻って音楽に触れている。そこで最初に感じたことは、不思議と北海道にははっきりとした音楽シーンは存在しないということだった。東京のように、ライブハウスごとのわかりやすいジャンルの住み分けもほとんどない。しかし音楽性の違いこそあれど、私が故郷に戻ってから出会った目を引く音楽群に共通して感じたキーワードは「純粋性」。これから挙げるのは、すでに全国に向けて音源をリリースし、北海道の中でも注目を集めてはいるものの、全員がまだ地元在住のミュージシャンだ。これらの音楽に潜む「純粋性」が何故生まれ、この土地が何故ガラパゴス的な音楽シーンの広がりをみせているのかを考察していきたい。

The Floor

The Floor「ハイ&ロー」

 今最も北海道で勢いのある北海道発4人組、The Floor。最近日本各地のイベントに顔を出し始め、今年は新人枠でRISING SUN ROCK FESTIVALにも出演した。彼らの魅力は、高レベルで絶妙なバランス感を創出しているところ。「ハイ&ロー」を一聴すればわかるように、PhoenixやVampire Weekendといった海外インディーロックの系譜にある世界水準のサウンドを披露。そこに、邦楽ロックど真ん中を貫く抒情的かつ力強い歌声が乗る。しかもそのメロディはリズミカルな音ハメをしつつも、サビではポップシーンにも馴染む普遍的なフックを持つ。ここまで様々な音楽の良質な部分だけを吸収して形にすると中途半端なものになってしまいそうなものだが、そうならないのが彼らの強さだ。――とにかく衒いなく、純粋に好き勝手に音楽で遊ぶ彼らは、新たなロックシーンのスタンダードに躍り出る可能性を秘めている。

グミ

グミ「夏子」

 飾らない出で立ちに、MV中でも見せる悪ふざけに滲み出る無邪気さ――はっきりと書いてしまえば「クソガキ」感溢れる、札幌在住の4人組ロックバンド・グミ。ライブでも平気でオーディエンスに「うるせぇ!!」と叫ぶわ、自撮りで写真は撮り出すわ、もうとにかく自由。しかし、楽曲を聴けばその印象などどうでもよくなってしまう。音楽的な真新しさ云々ではなく、とにかくメロディと歌詞にグッとくるのだ。彼らの代表曲「夏子」は、切なさと胸の高鳴りを呼び起こすメロディのフックを持ち、そこに綴られた飾らないリリックに、夏の刹那のすべてが鮮明に詰まっている。まだまだ演奏面ではこれからのバンドだが、ステージ上で彼らがみせる熱量の高さと無邪気さ、そして何より「歌」のよさは未来の可能性が煌めいている。純粋に音楽と青春を楽しむことを思い出させてくれる、ロマンのあるバンドだ。

最終少女ひかさ

最終少女ひかさ「さよならDNA」

 最早北海道の域を出て、全国区の存在となりつつある札幌在住ロックバンド・最終少女ひかさ。彼らの音楽は、とにかく「剥き出し」。普通なら心の底に仕舞い込んでしまうような感情を捲し立て、世の中に対して牙をむくシャウトをぶち込むスタイルが平常運転。性急なBPMにエッジの利いたウワモノ隊が光る、今のフェスシーンにもリンクする点が彼らの広がりを助けているのだろう。ある意味、最も過去の北海道における音楽シーンの系譜にいるバンドで、eastern youthなどにも通じる泥臭さと生々しさが香り立つステージを披露している。それに加え、フロントマン但野正和の「ロックスターはこうでなきゃ!」と言わんばかりの風貌と、危うい魅力も彼らに引き付けられる理由の一つ。ロックと音楽を極限まで信じる純粋なマインドが生んだ、北海道オルタナティブロックの新星である。

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