北海道では“純粋”な音楽が生き残る? 地元在住ミュージシャンの動向をレポート

Softly

Softly「あなたのことを想って指先でなぞる文字は」

 今年2月にメジャーデビューを果たした、10代の2人組女性シンガーソングライターSoftly。彼女達は、苫小牧というフェリー移動のバンドマンにはお馴染みの港町の出身で、高校生の頃から注目を集めていた(ちなみに彼女たちは苫小牧の観光大使を務めている)。ギターのHARUKAが生み出す瑞々しい楽曲と、ボーカルMUTSUKIが綴る歌詞が創り上げる世界は、若い女性の等身大の心情を描く。そして、最も特筆すべきは、和声テイラースウィフトと言ってもいいほどの変幻自在の表情に加え、力強さと透明感を併せ持ったMUTSUKIの歌声。彼女たちが織り成す音楽は、歌謡大国である日本に幅広く届き得る、「ど真ん中」を狙えるもの。天真爛漫なキャラクター含め、とにかく良質なポップスを生み続け、それを届けたいという純粋な想いが光るふたりだ。

NOT WONK

NOT WONK 「Older Odor」

 最後に紹介するのは、すでに音楽フリークの間ではバズっている存在のNOT WONK。先に紹介したSoftlyと同じように苫小牧という街に住み、平均年齢も20歳とまだとても若いバンドだ。彼らの楽曲を一聴すれば、日本の枠組みを超えた世界レベルのサウンドに、とてつもない才気を感じることができるだろう。ステージ上でも雄弁に語るタイプではなく、とにかく自らが鳴らす音楽を楽しんでいる若者たちという印象が鮮烈に残る。周囲に左右されることなく愚直に自らが楽しむための音楽を鳴らした結果、彼らの音楽は国籍を越えたものになっているし、Literature(※アメリカのインディーロックバンド)と共演を果たしたことも頷ける結果だ。Galileo GalileiやFOLKS、もっと若い存在で言えばAncient Youth Clubなど、USインディーロックに傾倒しているバンドは北海道にも存在するが、ここまで純粋に日本のシーンなど脇目も触れずに突き進む存在は、日本中でも希少だ。

北の地の離島が生む「純粋性」

 少し話は変わるが、北海道という土地は離島であるが故に、基本的に他の土地から入ってきたものを受容していく文化である。「北海道のオーディエンスは、最初シャイだけど一度盛り上がると凄い」と様々なミュージシャンが口にしていることはご存じだろうか。その理由は、道民が外的なものを受容する生活を過ごす中で、すべての物事に対して一旦吟味をするタームを持つからだと感じている。だからこそ、音楽/姿が純粋ではないものを、北海道のリスナーが受け入れることは難しい。虚飾を持つものをピュアに評価することは難しいからだ。

 故に、まったくジャンルは問わずとも、先に紹介したような何かに対しての「純粋性」を持って音楽を放ち、その中でもフックを持つものが生き残る――今の北海道の音楽シーンの根幹にあるものは、こういう事象なのだと感じる。ロックシーンに限ってみても、怒髪天、bloodthirsty butchers、the pillows……過去に北海道から飛び出していった代表的なミュージシャンからも、共通のものを感じてならない。

 今後、どんな音楽がこの北の地から生まれていくかは予想もつかない。しかし、その音楽にはきっとこの土地で生き残るものだからこそ持つ、「純粋性」が光っているはずだ。

■黒澤圭介
1988年北海道札幌市生まれ。東京在住時に株式会社FACTに入社、『MUSICA』『VIVA LA ROCK』などに関わる。現在は故郷札幌に戻り、北海道テレビ放送(株)にて音楽番組『夢チカ18』・ライブイベント『夢チカLIVE』などを担当している。

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