高橋優が提案する“生きづらさ”を軽減する方法 「自分の免疫力が高ければ絶対に負けない」

高橋優を苦悩から救ったもの

 今年、メジャーデビュー15周年を迎えるシンガーソングライターの高橋優。札幌での路上ライブからキャリアをスタートし、2010年に『素晴らしき日常』でメジャーデビュー以降、「明日はきっといい日になる」「福笑い」といった自身を取り巻く何気ない日常や社会の空気を鋭く、ユーモラスに切り取る楽曲で人気を博してきた。

 1月22日には“幸せ”をタイトルに掲げた最新アルバム『HAPPY』のリリースを控える中、本インタビューでは高橋優にキャリアの中においての苦悩や葛藤、近年よく耳にする“生きづらさ”について話を聞いた。15年、音楽家として走り続けてきた高橋優の人生観に触れていきたい。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

高橋優が感じる“生きづらさ”「大体“めんどくさいね”って言われる」

高橋優
高橋優

ーーこれまで歩んできた人生の中で特に記憶に残っている困難な出来事、苦悩を味わった経験を教えてください。

高橋優(以下、高橋):路上ライブをずっとやっていた時期に映画館でアルバイトをしていたんですよ。それまでもいろんなアルバイトをしていたけど、上手く仕事ができなかったりして、全部あんまり長く続かなかった。でも、僕は映画が好きだから映画館でのバイトは自分で言うのもアレですけど、けっこう仕事ができたんです。で、始めて半年くらいでアルバイトから昇格して、その後に「就職しない?」って誘われたんですよ。そのありがたい誘惑が自分にとってけっこうツラい経験で。こちとら音楽で成功したいと思ってはいたけど、そこでちょっと心揺れた部分は確実にありましたから。

ーー夢を取るか、安定を取るかの選択を迫られたわけですか。

高橋:そう。めちゃくちゃ恐怖でしたよ、夢っていうものは、こうやって諦めることを余儀なくさせるのかもなって思った。強い意志を持って音楽にしがみついておかないと多分、優しく引き剥がされていたんじゃないかな。僕、路上ライブ中に面と向かってツバ吐かれたことがあるんですけど、そういうのって気持ちの張りになるんですよ。その時は「きったねー」とか思うけど、すぐ「なにくそ」っていう気持ちになる。でもね、優しく近づいてきた上での諦め誘導は、かなりキツいんですよね。だって誰にも悪気はないわけだから。

ーー状況は違えど、似たような経験をしたことがある人も多いかもしれないですよね。

高橋:うん。例えば、この人と付き合ってたら幸せになれるかもしれないけど、自分はもっともっと転がっていたいから結婚はしないでおく、とかね。あなたはいい人だけど、私はまだまだ先に行きたいから、ちょっとあなたとは一緒にいられない、とか。そういう経験をお持ちの方はいらっしゃるんじゃないかな。そういう時ってやっぱ心苦しいじゃないですか。その感覚に近いと思います。

ーー高橋さんの場合、就職という誘いをどう振り切ったんですか?

高橋:僕の場合、常にちょっと遠くを想像してやるんですよ。例えば、ギターの練習をしてたら来週にはどれくらいできるようになっているか、来年にはどうなっているかっていうのを想像するんです。就職のお話をもらったときは、それを選んだ方が絶対幸せだなとは思った。でも1年後、2年後の自分がどうなっているのかを想像した時に、「見てろよ」と思えたのは音楽の方だったんですよね。足元だけを見ていたら今の時点での良いことしか選ばないじゃないですか。でも、遠くを見て歩いていれば、足元が汚れていようが、靴が破けようが、足をケガしようが、はいつくばってでも目的地に向かって進んでいける。自分の中にひとつ、気持ちの羅針盤を持っているというかね。そんな思いで就職の話はお断りしたんですけど。

ーー安定を蹴る怖さもありそうですけどね。

高橋:そうそう。だってね、それで成功しなかったら、ただのヤバイやつなんですよ。「何言ってんの、この人?」「あの歳になって歌とかやってるんだって、まだ」みたいな(笑)。僕自身、同級生にはそう思われていたのかもしれない。「あの人、就職しないんだって」「路上ライブやるんだって」みたいな感じで。でも、僕としてはそうやって噂されることすらも全部曲にできるかもしれない、ネタにできるかもしれないっていう思いを持ってやってきた。で、今こうやって話せる日が来たっていう(笑)。

ーー人生の岐路に立たされたとき、本当に好きなもの、心から信じられるものがあるというのは強いですよね。

高橋:そうですね。僕の場合、当時も今も音楽の才能があるなんて言われたことはほとんどないけど、大好きだからこそ必死にしがみついてやってこれた感じ。たぶん、その人ごとにそれくらい好きなものはきっとあると思うし、それぞれのモチベーションで前に進んでいけばいいんじゃないかなとは思います。

ーーご自身の経験を踏まえ、同じような悩みを抱えている人を音楽で救いたいという思いもありますか?

高橋:どうでしょうね。僕が音楽をやる上でひとつ気をつけているのは、押し付けにならないようにしようっていうことで。だって僕は先生じゃないですから。ミュージシャンなんて、陸上の海賊みたいなもんだと思ってますから。

ーー山賊的な(笑)。

高橋:そうそう。好きなことをやって生きているっていう意味では山賊と変わらないかなと(笑)。だからリスナーの人たちに対して、「俺はこう生きたから、あなたはこう生きよう」みたいなことはあんまり思っていないというか。もちろん曲の中で自分の経験を歌詞にすることはありますけど、それを押し付けないようにはしています。どう受け取ってもらうかはその人ごとの自由なので、あくまでもBGMの範囲内のメッセージにしたいなと思ってます。

高橋優

ーー今の時代は“生きづらさ”を感じている人がものすごく多いように思いますが、高橋さんもそういった思いに苛まれることはありますか?

高橋:ありますあります。僕の場合、とにかくいろんなことを勝手にすごく考えたり、メモったりすることが多いんですけど、それを誰かに話すと大体「めんどくさいね」って言われますよ。例えば、一時期のタピオカ屋さんのようなブームになっているお店に朝早く、開店前から並び、その様を全部自撮りしてインスタに上げるような人生ならよかったって本気で思いますから。

ーーそれは……どういうことですか(笑)?

高橋:自分はそこに喜びを感じられないということですよ。まず並ぶのが嫌いだし、飯は映えではなく栄養補給だっていう思いが強いですから。めんどくさいと言われる人は、だいたい1人で悩むことが多いんですよ。でも、大事なことはめんどくさいことの中にあると僕は思っているから、僕の言っていることはだいたい大事なことなんです。僕はそう思ってます。でもね、それをラジオとかで話すと時間内に収まらなくてバッサリ切られたりして。そのときの孤独感たるや、世界中から見放されたような気持ちになりますよ(笑)。

ーー今、よく言われるのはSNS上での居心地の悪さ、生きづらさみたいなものもありますよね。そういった現状をどう思います?

高橋:SNSは見たい人が見てると思うんで、見て悩んでるとしたら、その人はきっと悩みたいんだと思ってます。例えばプロモーションの一環としてSNSをやってる方がいらっしゃるとして、そういう方々が「あの人の使い方上手いな」「わ、先を越された」みたいな悩みだったらまた別なんですよ。それはSNSというツールを上手に使ってる方々のハイレベルな悩みだと思う。でも今、議題に上がっているであろうSNSで悩んでる方々っていうのは、ただ見て悩んでるような気がするんですよね。極論、悩むためにいらっしゃってるんじゃないかなと。だって見なくたっていいわけですから。

ーー確かにその通りですよね。でも一方では、見ずにはいられない、無視できないという生きづらさもあると思うんです。

高橋:僕はそもそもスマホという超便利器具を使いこなせているわけじゃないので、SNSも含めて、あってもなくてもいいものなんですよね。で、あってもなくてもいいものは、なくてもいいという持論もある。だから、あってもなくてもいいことの中での悩みは、なくてもいいものという気がしますけどね。

ーーなるほど。個人的な感覚ですけど、今の時代は言いたいことが言えなかったりすることもあるじゃないですか。でも一方では、SNS上でのやり取りが顕著ですけど、言わなくていいことまで言ってしまうことで余計な争いが生まれることも多いような気がしていて。そこでのごちゃごちゃした感情のもつれが、生きづらさに繋がっているところもあるのかなと。

高橋:これを読んでくださってる方が果たしてどういうことに悩んでるのかがわからないので具体的ではないんですが、僕が今感じたのは、人がぐちゃぐちゃに見えるときって、ちょっと遠くから見てるからだよなってことで。例えば原宿の竹下通りを少し離れたところから眺めるとアリの大群がうじゃうじゃしていて、隙間がまったくないように見えるんですよ。フェスなんかも同じですよね。ステージから客席を見ると、ミチッと人がいるように見える。でも、そういったぐちゃっとした場所でも、近づいていけばちゃんと自分の居場所、隙間があるんですよ。だから興味があることに対して、一つひとつしっかり紐解いていくことはたぶんできるはず。

 ただ、実際にSNSの中で紐解いていかなきゃいけないこと、紐解く必要があることって少ないと思うんですよ。もちろん政治のように自分の人生に影響を及ぼすこともあったりはするけど、誰かがこんなこと言ってたとか、誰かが不倫したとか、SNSで飛び交っていることはだいたいが他人事ですから。だから大事なことは自分で精査していく必要があるんじゃないかな。自分がどこに近づいていって、何を紐解いていくかを自分で選んでいかなきゃいけないんだと思います。それができればね、それ以外のことが別にごちゃごちゃしていようが、あんまり関係ないっていうか。

ーーそこはある種、スキルが求められるところでもありますよね。生きづらさを感じないためのテクニックを身につける必要もあると。

高橋:そうですね。それってSNSだけに限ったことではなく、学校や職場でもそうじゃないですか。なにせ他人のことなんてすべてを理解できるわけないわけだから。次のアルバムに入っている「青春の向こう側」という曲でも書きましたけど、自分以外の人のことをコントロールしようとしても上手くいくわけがないんですよ。やっぱり自分自身が変わらなきゃいけない。自分とは性格的に合わない人と巡り合ったときに大事になるのは、自分がステップアップして、そういった人たちに対しての免疫力を上げていくしかないですからね。世の中がウイルスにまみれていても、自分の免疫力が高ければ絶対に負けないと思う。で、そのためにどうすればいいかって言ったら、しっかり息抜きすることですよ。今の時代、みんな命がけで息抜き、リフレッシュしたほうがいいと思いますよ。今、悩みを抱えている人たちに聞きたいですよね。「食べてますか?」「寝てますか?」って。

ーーシンプルなことだけど、それこそが大事だと。

高橋:めちゃくちゃ大事だと思います。太陽が出ているうちに外に出て歩くとかね。あとは腸活。オキシトシンとかセロトニンっていう幸せ分泌ホルモンっていうのがあって、それがたくさん出てる人は安心するし、自分に自信があるんですって。で、オキシトシンは腸からいっぱい出るそうなんですよ。だからすぐにお腹が痛くなる人は自信をなくしがちだし、「ダメだー!」ってなりがちなんですって。

ーーへぇ。腸活は日頃から手軽に続けられそうですね。

高橋:そうそう。お腹をあたためるのもいいし、オリゴ糖をちょっと舐めるだけでもいいんですよ。あとはスパイス。僕は一時期、いろんなことに悩みすぎて落ち込むプロになりかけたことがあって。そんなときにスパイスを使ったカレーを作って食べることでお腹が整い、安心して眠れるようになったんです。今、落ち込んでいる人にはぜひおすすめしたいですね。人には落ち込みたい時期もあるし、自分のことを否定してしまいたくなるときがあるのもわかる。それはそれでいい。その代わり、明日からスプーン一杯のオリゴ糖をなめてみて、と言いたいですね。

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