夜々、すべての夜に寄り添う美しき声はどこから生まれたのか? 川谷絵音アレンジのデビュー曲を語る

夜々、すべての夜に寄り添う声

 1月15日、日本テレビ火曜プラチナイトドラマDEEP『いきなり婚』の主題歌「Lonely Night」でデビューを果たしたシンガーソングライター・夜々(よよ)。クラウドナインが送るこのニューカマーがいったいどんなアーティストなのかを知る手がかりは、現時点では非常に少ない。

 「夜々」という名前、そしてデビュー曲のタイトルとその内容(川谷絵音のアレンジによるシティポップ調の洒脱なサウンドに乗せて、いなくなってしまった誰かへの思いを歌う)からはダークで儚くて切ないイメージを思い浮かべる人も多いかもしれないが、実は彼女はそれ“だけ”のアーティストではない。以下のインタビューを読んでいただければそれは間違いなく伝わると思う。非常にコンセプチュアルな第一印象とは裏腹に、とても振り幅の大きな、だからこそ人間的な表現者、それが夜々である。初インタビューとなる今回は、楽曲のことはもちろん、夜々というアーティストが生まれるまでの物語を語ってもらった。(小川智宏)

夜々、音楽への目覚め「自分の声がマイクを通して響き渡るのが快感」

――夜々さんが音楽を志したきっかけというのは何だったんですか?

夜々:幼少期から親が結構音楽を聴いていて。物心ついた時から家で音楽が流れている環境だったので、もともと音楽を聴くのは好きだったんです。歌うことが好きになったきっかけは、学生時代にギター部があって、仲の良い友達がみんな入るから「じゃあ入ろうかな?」という軽い気持ちで入ってそこで先輩や顧問の先生から弾き語りを学びました。自分がギターを弾いて歌うのを聴いてくれる人がいるという環境を中学生の時に経験して、すごく楽しいと思って、そこから歌うことが楽しくなりましたね。

――当時弾き語りでどんな曲をやっていたんですか?

夜々:入部して最初の課題曲が、ゆずさんの「サヨナラバス」だったんです。それをまず弾いて。あと公民館とかでもライブをやっていたんですけど、YUIさんや阿部真央さんの曲をよくやってました。

ゆず 「サヨナラバス」PV

――公民館で演奏会をやるんだ。

夜々:地元のおじいちゃんやおばあちゃんとかが観にきてくださるんですけど、その環境が楽しかったんです。自分の声がマイクを通して公民館に響き渡るのがすごく快感で。

――へえ。緊張とかはなかったんですか?

夜々:すごく緊張しました(笑)。もうコードもぐちゃぐちゃのまま歌ったり、正しいマイクの位置もまだ中学生だったのでわからなくて。どこがいちばん自分の声が通るのかもわからないままいろいろな経験をしたけど、楽しかったです。

――そうやって人前で何かを表現するみたいなことは、もともと好きだったんですか?

夜々:いえ、もともとは人見知りで引っ込み思案なタイプでした。でも、小学校4年生の時にダンススクールに通い始めてから明るくなって。そこで今の性格になったのかなと思います。発表することが好きになったんです。

――ダンスもやっていたんですか。

夜々:小学生の時は、ダンスの先生を志していました。

――ちなみに今もダンスはやったりするんですか?

夜々:今は趣味でK-POPグループのダンスをYouTubeで観て覚えたりするレベルです。

夜々の運命を変えたAAAと“ベーコンフランスの歌”

――夜々さんの音楽におけるルーツ、影響を受けたアーティストというと、どういうものですか?

夜々:私、歌手になりたいと思ったきっかけがあって。ある時、兄がAAAさんのライブDVDをおうちで観ようと誘ってくれたことがあって。兄妹ふたりで部屋を真っ暗にして、『Eighth Wonder』のツアーのDVD(『AAA TOUR 2013 Eighth Wonder』)を観たんです。それに衝撃を受けて。かっこよすぎて、その時に「そっち側に行きたい!」と思ったんです。あのライブは今でも何度も観返していますし、『Eighth Wonder』のアルバムも何度も聴いてます。

AAA - Eighth Wonder/AAA TOUR 2013 Eighth Wonder

――それは何が刺さったんですか?

夜々:演出だったり、オープニングでメンバーの皆さんが歌って(ステージに)出てくるシーンが本当に印象的で、とてもかっこよかったんです。その時に、「そっちに行きたい!」「私もああやってステージに登場したい!」という気持ちが生まれました。

――じゃあ、単純に「歌を歌いたい」というよりも「エンターテインメントを自分で表現したい」という感じだったんですね。

夜々:そうだったんだと思います。そこからオーディションもたくさん受けましたし、自分で曲を作ることも始めて。ギター部の時はカバー曲のみだったんですけど、トライアンドエラーを繰り返しながらここまでやってきました。

――曲を書き始めたのは何がきっかけだったんですか?

夜々:ギター部の部活動中です。当時、学校に“ベーコンフランス”っていうパンが購買に売っていたんですよ(笑)。

――ベーコンが入っているフランスパン?

夜々:そうです。180円。私、そのベーコンフランスが大好きだったんですよ。それをふいに口ずさんで作った曲が、人生で初めてできた曲です(笑)。

――ベーコンフランスの歌?

夜々:はい、ベーコンフランスの歌です。そうしたら部活動の後輩とか友達がみんな「めっちゃいい曲だよ!」と言ってくれて、以降、私の人生最大の名曲になっています(笑)。自分が作った曲を聴いて喜んでくれる人がいるというのが嬉しいのと、自分でも曲を作ってみたいなという気持ちがあって、それからちょこちょこ曲作りを始めました。

――人の曲をギター弾いて歌うのと、自分で曲を作るというのって、全然違うじゃないですか。

夜々:愛情が湧きますね。我が子のような気持ちです。

――そのぶん苦労もあると思うんですよ。最初のベーコンフランスの歌はノリで作ったんだと思うんですけど、今に至るまでいっぱい曲を作っていくなかで“曲を生み出す”という作業に対してはどんなことを感じてきましたか?

夜々:楽曲作りについては私は天才型というよりも、努力型だと思っていて。急にメロディが降りてくることもあるし、「こういうテーマで曲を作ろう」と思って作る時もあって、本当に楽曲によってさまざまだけど、その工程はすごく好きです。完成に至るまでの期間に生じるちょっとした悩みとかもあるじゃないですか。それもいいなって思います。

――曲を書くようになって、もちろん歌が好きっていうのはあるにしても、もうひとつ表現のツールができたわけじゃないですか。それによって夜々さんにとっての音楽はどう変わりました?

夜々:普段からさまざまな音楽を聴くんですけど、その時々に聴いている音楽によって自分の「こういう曲書きたい」という思いもいろいろと生まれてきて。デビュー曲の「Lonely Night」は、2024年の私が作りたかった曲ですし。その時の感情でいろいろな曲が生まれて、それを自分の気持ちの成長として記録できることがすごく素敵だなと思います。

――歌詞を書くことによって、それまで知らなかった自分が見えたりすることもいっぱいあると思うんですよね。そのなかで新たに気づいていったこともありますか?

夜々:昔書いた曲を聴くと、「この時の自分、めっちゃ病んでる!」と思う時もありますし、「楽しそうだな」と思う時もあります。その時の自分の気持ちを整理できる日記みたいな感覚で、恥ずかしくもあり、嬉しい気持ちもあります。

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