日食なつこ、活動15周年企画が堂々フィナーレ キャリアの総ざらいと次なるタームへの助走

日食なつこの15周年が終わった。と同時に発表されたのが、5作目のアルバム『銀化』のリリースとそれに伴うZeppツアーの開催......息つく間もなく新しい季節が始まっている。1月10日に行われたTOKYO DOME CITY HALLでのワンマンライブは、活動15周年を祝す「宇宙友泳」のクライマックスであり、同時に次なるタームへの助走だろう。
「宇宙友泳」と題した15周年企画が始まったのが、2024年の春だった。自身初の展覧会「エリア過去」を皮切りに、未発表曲だけを演奏するツアー「エリア未来」を開催。ベストアルバムのリリースを9月に行い、日食なつこの原点・盛岡での3daysワンマン「エリア不変」を敢行。それら4つの企画を経て行われたのが、2024年11月から始まった自身最大規模となる全国ツアー「エリア現在」である。ベストアルバムに紐付けたツアーであり、全会場をソールドアウトで駆け抜けたことからも今の充実ぶりは明らかだ。
TOKYO DOME CITY HALLでは他会場とは異なりゲストも招くなど、一層スペシャルな一夜となった。アニバーサリーイヤーを盛大に展開してきた日食なつこが、その勢いのままに堂々のフィナーレを飾ったのである。

主軸となるメンバーは、日食なつこに沼能友樹(Gt)、仲俣和宏(Ba)、komaki(Dr)を加えた4人である。この日のライブから「日食クルー(仮)」の「(仮)」がとれ、正式に「日食CREW」と名乗っていくことを発表するなど、バンドとしてより強固な関係性が生まれているのだろう。実際、昨年行ったふたつのツアーと盛岡での凱旋ライブはもちろんのこと、「談話室」と題した配信ライブに加え、新曲群のアレンジまでをこの4人で行うなど、もはや日食なつこの音楽には欠かせないメンバーたちである。一昨年に行ったライブツアー『蒐集大行脚』で初めて集まった彼らは、2年弱の時間を経て上々のケミストリーを醸成しているのだ。

開演前から期待でいっぱいになっていたステージに、日食CREWの4人が登場。「空中裁判」で始まり、「致死量の自由」「レーテンシー」と繋がっていく。このまま磐石な布陣で進んでいくのだろう、と思っていたが、一筋縄で行かないのが日食なつこのライブである。ここからは目まぐるしく編成を変えながら、15年のキャリアを総ざらいしていく。



まずは「大停電」をkomakiとふたりだけで演奏し、「グローネンダール」は沼能友樹とプレイ。後者は音数が少なくなることで、柔らかい音色のギターが一層映える好演だったと思う。バンドメンバー一人ひとりとセッションをしていくように、次は仲俣和宏と「meridian」を披露。ふんわりとした印象の楽曲を、底から支えるずっしりとした低音に誰もが魅了されたはずだ。


さて、再び4人に戻って演奏されたのが、未発表曲の「h」である。のっけから熱量の高いアンサンブルと、日食なつこの焚き付けるような言葉と歌唱。終盤にスローダウンしてから、再度爆発するような緩急のある展開もスリル満点である。「談話室」での初披露から予想されたように、ライブでこそ映える1曲だ。恐らく『銀化』に収録されるはずのこの曲は、きっとこの先日食なつこのライブにおける定番になっていくのではないだろうか。


『蒐集大行脚』で初めて披露されたハンドマイクでのソロ歌唱(本人曰くカラオケ!)は、「vip?」、「泡沫の箱庭」とレパートリーを増やしている。「お客さんからも評判だった」とのことだが、「今の日食なら何をやっても大丈夫!」という、キャリアに裏打ちされた自信があってこそだろう(そしてこの自由さが今の日食なつこを象徴するものだろう)。とりわけ「泡沫の箱庭」は、薄暗くてひんやりとしたエレクトロニカポップという印象で、このスタイルでの歌唱がしっくりくる。仄白いスポットに照らされて歌う姿も決まっており、本当に幽霊が出てきそうな気配があった。

一転、日食カルテット(伊藤彩(1st Violin)、地行美穂(2nd Violin)、三品芽生(Viola)、結城貴弘(Cello))を招き、4人編成で演奏したのが「やえ」である。ストリングスが奏でる抒情的なメロディは美しいの一言。叶わなかった想いを情感豊かに歌うこの曲は、何度聴いてもうっとりするような名曲だ。次は日食なつこがグランドピアノを弾いて歌った「神様お願い抑えきれない衝動がいつまでも抑えきれないままでありますように」。ベストアルバムには収録されなかったものの、昨年行った「楽曲総選挙」で上位に入った曲を各公演で1曲ずつ披露してきたという(他会場では「四十路」や「環礁宇宙」などを演奏)。「神様お願い〜」はグツグツと煮え滾る日食なつこの意地と理想と信念が、そのタイトルに比して涼やかな鍵盤に乗せて歌われていく楽曲で、音と言葉のミスマッチが妙に癖になる1曲である。
