バンドマン実業家が渋谷のど真ん中に“やりすぎ”なライブハウスを作った理由「大事なのはお金の“稼ぎ方”ではなく“使い方”」

湯浅晃平、新規ライブハウス経営を始めた理由

 「ここから、はじまる。ここから、つながる。」をコンセプトに、東京カルチャーの発信地・渋谷 宇田川町という抜群のロケーションにオープンする新たなライブハウス・SHIBUYA FOWSが話題を呼んでいる。ステージ背面には大型LEDビジョンを設置し、最先端の音響設備を導入。地下ステージに至る店頭1階には、カフェ&イベントスペース・SHIBUYA XXIを併設し、路面にはサイネージ広告やLEDパネルを完備。“ライブハウスはちょっと怖くて入りにくい”という世代にも、ジャパニーズカルチャー体験に貪欲なインパウンド客にもアピール。東京の今の音楽を身近に感じ、気軽に入れるライブハウス体験を創出するという。

 約200人キャパというこじんまりしたライブハウスとしては、あまりにも“やりすぎ”なこだわりが詰め込まれたSHIBUYA FOWS。なぜ今、ライブハウスだったのか? ライブハウスから広がるその先のビジョンは何か? 2025年1月18日よりプレオープンし、2月1日の正式オープンを控えたSHIBUYA FOWSを運営するFiLL'sホールディングス株式会社代表・湯浅晃平氏に話を聞いた。(阿部美香)

“アーティストを育てる”ライブハウスが減っている、ならば自分で作ろう

――まずはSHIBUYA FOWSができた経緯から伺います。構想はいつ頃からあったのですか?

湯浅:構想は2年程前、コロナ禍のタイミングからありました。ただ、ずっといい物件はないかと探していたんですがなかなか出会えず、時間がかかってしまいましたね。以前から三軒茶屋で昼は愛犬と一緒に楽しめるカフェで、夜は音楽ライブやDJイベントができるTIME, TIME, TIME.というミュージックバーの経営はやっていますが、ライブハウス自体をゼロからスタートさせたのは今回が初めてです。

――湯浅さんはこれまで”夢を叶える会社”FILL LIGHTを母体に、芸能事務所・FiLL'sの運営や、上京支援、起業家育成支援など、多角的に事業を行なわれていますが、なぜ今、ライブハウスだったんでしょうか?

湯浅:ライブハウス自体を経営したいと考えたきっかけは、自分のそもそもの事業理念に基づいているんです。僕の起業の出発点は“アーティスト、バンドマンの夢を応援する”ところからのスタート。夢を持った人が夢を叶える過程をとにかくサポートしていきたいと、いろいろな事業を始めて今に至っています。その中で、まだ手掛けていなかったのがバンドマンやアーティストの夢に直結するライブハウスでした。もともとライブハウスというのは、アーティストに寄り添って、アーティストが自分たちだけではリーチできないお客様だったり、よりよいパフォーマンスを引き出すサポートを、ライブハウスというハコ全体でしていくものだったと思うんですね。そういう出演アーティスト自身が成長できるライブハウス環境が、ここ最近失われているように思っていて。

――バンドマンはよく、“〇〇というハコが僕らを育ててくれた”と言いますよね。

湯浅:そうなんですよ。特に大都市圏のライブハウスは、週末に関してはかなり需要があり、貸せば貸すだけ儲かります。そうなると、アーティストと向き合いながら育てていくハコではなく、いわゆる“ただの貸しバコ”になってきているケースが多いと感じる。僕自身、もう20年前からバンド活動をしているんですけど、ハコ側に育っててもらったとか、ハコと一緒に頑張ってきたイメージがありますが、それを持ちにくい時代になった気がします。実際、本当にアーティストのためになるハコというのが、僕の中でも見当たらなくなってきた。であれば、自分で作ってしまうしかないな、と考えました。

湯浅晃平(撮影=林将平)

――ご自身のバンドマンとしての経験が、“アーティストを育てるライブハウス”の必要性を感じさせたわけですね。もしかして、湯浅さんがずっと手掛けていらっしゃる他の事業、たとえば地方から東京に出てきて音楽活動をする人の上京支援プロジェクトなども、ご自身のバンド活動から生まれたのですか?

湯浅:はい、まさにそうです。僕は今から約15年ほど前、2010年に兵庫から上京してきました。その時はもちろん音楽で成功するために東京に出てきてバンド活動をしていたんですけど、正直、お金がない中で仕事を探そう、家を探そうとなっても、まったく上手くはいかなかったんですね。最初は貸しスタジオに直接、僕を雇ってくれないか?と飛び込んだんですけど、まだ住む家がないと言ったら、それじゃダメだと。家を決めてから来てくれという話になり。そりゃそうだよな! と思って今後は不動産屋に行ったら、仕事がないなら契約はできないと言われ……あれ? じゃあ一体どうすればいいんだろう? と……。

――八方塞がりですよね。

湯浅:そうなんですよ(苦笑)。結局、東京の友達の家に居候をさせてもらいながら、日雇いのバイトを何カ月か頑張ってお金を貯めて、なんとか一応引っ越しはできたんですけど、とにかく大変でした。上京したばかりなので知り合いも少ないし、相談相手もいない。肉体的にも精神的にも、いろんな面で苦労がありました。

――せっかく夢を持って上京しても、生活の苦労で挫折してしまう人もたくさんいますよね。

湯浅:そういう苦労をできる限りなくして、少しでも“東京でのチャレンジ”の第一歩に、もっと気軽にできる環境だったり同じ苦労をしている同士が励まし合えるコミュニティというものを、ぜひ用意してあげたい! と思って、事業やサポートプロジェクトを始めたんです。家を確保できるシェアハウスの経営、音楽活動を続けながらできる仕事が斡旋できるように、飲食店、配送系の会社やコールセンター、スタジオ経営などを、今はグループ会社化しているんです。たとえば、今取材をしていただいている音楽スタジオではボイストレーニング教室なども開いていますが、うちのグループで働いてる子には、料金の一部を免除してあげたり、仕事と夢をリンクできる環境作りを、事業を通じてやっている。今回のライブハウス経営も、これから羽ばたいていくバンドマンやアーティストの卵にとっての、ライブを通じて成長できる場になってほしいと計画したものなんです。

バンドマンとしてライブハウスから受けた恩を返したい

――失礼な言い方になってしまいますが、ただでさえ地代も高い渋谷に豪華な設備を投入した新しいライブハウスを開くというニュースを見た時は、正直、コロナ禍を過ぎてライブ興行が盛んな近年、音楽畑とは異なる業種のめざとい企業が、単なるビジネス目的で参入したんだろうなと思っていました。

湯浅:なるほど(苦笑)。もちろん東京でも、すごく熱い想いを持ってライブハウス経営をされている方がいらっしゃることも重々認識はしています。僕も経営者の1人として、この金額を出して借りてくれる人がいるのなら、素直にお貸しすればいい、という考えももちろんわかるんです。ビジネスとしては。ただ……なんでしょう、僕自身も地元・神戸で親身になって話を聞いてもらったり、僕らバンドのことを考えてお金のやり取り一切なしでマネジメントの相談に乗ってもらったりと、育ててもらったライブハウスの方がたくさんいた。その恩を今度は僕が若いアーティストに返したい。そういう場所があって初めて、本当の意味で音楽シーンが盛り上がると思うんです。そういうところにお金が使えるのだったら、僕も嬉しいんですよ。

――場所は最初から渋谷にしようと考えていたのですか?

湯浅:いえ、23区内がいいと思っていましたが、こんな渋谷のど真ん中に出す予定はなかったです。それこそ下北沢ですとか、神楽坂や新宿の少し外れのあたりで空き物件を探していたんですが、なかなか折り合いが付かなくて。じゃあ渋谷も視野に入れようか? という時に、たまたま現在の新築ビルが入居者を募集しているのを見つけました。せっかく出店するのなら、逆に渋谷のような大繁華街は面白いかもしれない。幸いオーナーさんも音楽カルチャーにとてもご理解のある方だったので、じゃあここでやってみよう! と。正直、当初想定していた予算は3倍に膨らんでしまいました(苦笑)。

――SHIBUYA FOWSのキャパシティは約200人。若干控え目に思えますが、そこにも意図が?

湯浅:はい。正直、さほど大きくはないと思っています。ただ、これも僕の中には展望がありまして。200から250キャパというのは、これからのバンドも中堅バンドも使いやすい、むしろちょうどいいハコなんですよね。僕のエンタメに対する考えとして、今の時代はSNSやネットを使って個人でもある程度の活動ができますよね。大手のマネジメントに頼らず、個人事業所で活動しているアーティストやタレントさんも増えている。僕らとしては、そういう人達のスタート地点というか。爆発的に売れるまでの活動の場を用意してあげたいんです。そのきっかけ待ちができる状態の目安が、ワンマンライブでの200~300人動員。これからのアーティストにとっては、そこまで自力で頑張って持っていければ火種が作れますから。

湯浅晃平(撮影=林将平)

――実際、音楽のプロフェッショナルの現場では今、特に都内には手頃なサイズのライブハウスが不足していると言われています。そのぶん、いいハコは取り合いになりますし、ライブハウスがアーティスト育成の場ではなく、“貸しバコ”化するのも肯けますね。

湯浅:その意味でも、今回のSHIBUYA FOWSの立ち上げは、起業でいうところのスタートアップに近いのだと思います。さらに僕の中での構想としては、500キャパ、1000キャパのライブハウスへと繋げていきたい。お手本としては、シブヤテレビジョンさんが運営するShibuya O-Groupになりますかね。同じグループの中でステップアップをできるハコを作ることはもう決めているので、まずはここからだと考えています。

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