りりあ。が“失恋”を歌い続ける意味 初のフルアルバムに至るまでの軌跡
シンガーソングライターのりりあ。がメジャー1stフルアルバム『軌跡』を1月15日にリリースした。
「私じゃなかったんだね。」「イツメン。」「最後のバイバイ。」などの配信シングル、「あんたなんて。」(TVアニメ『らんま1/2』エンディングテーマ)、「貴方の側に。」「幸せな約束。」(TVアニメ『わたしの幸せな結婚』第一期オープニング主題歌/第二期オープニング主題歌)などのタイアップ曲、「ずるい君。」などの新曲、さらに「失恋ソング沢山聴いて 泣いてばかりの私はもう。」のアコースティックバージョンを含む17曲を収録した本作。これまでのキャリアを網羅する事実上のベストアルバムであると同時に、りりあ。の新たな表現を体感できる作品となっている。
カバー動画で話題を集め、初オリジナル楽曲「浮気されたけどまだ好きって曲。」で注目度を高めたりりあ。今回のインタビューではアルバム『軌跡』を軸にしながら、失恋ソングに対する思い、楽曲の制作スタイル、ライブに向けた思いなどについて語ってもらった。(森朋之)
失恋ソングのネタは尽きることがない
——メジャー1stフルアルバム『軌跡』が完成しました。タイトル通り、これまでの軌跡が描かれた作品ですが、りりあ。さんご自身の手ごたえはどうですか?
りりあ。:これまでの曲だけではなくて、新曲もいくつかあって、アコースティックバージョンも入っていて。すごく濃いアルバムになったと思います。あとは「やっぱり失恋ソングばっかりだな」って。
——確かに失恋ソングが多いし、それがりりあ。さんの吸引力の強さにつながっていて。ご自分では、どうして失恋ソングに惹かれるんだと思いますか?
りりあ。:自分が幸せじゃないからそういう思考回路になっているというか(笑)、バッドエンディングにしたがるところがあるんですよね。1曲目(初のオリジナル曲「浮気されたけどまだ好きって曲。」)から浮気がテーマだったし、作りたいように作るとどうしても失恋ソングになりがちで。タイアップの曲を担当させてもらうようになって、少しずつ幸せな曲も作れるようになってきました。
——失恋ソングが共感を呼んでいることについてはどう思いますか?
りりあ。:すごく嬉しいです。やっぱり失恋ソングのほうが反応もいいし、浸りやすい、感情移入しやすいんだろうなと。ファンのみなさんも「りりあ。=失恋ソング」というイメージができているだろうし、「次も失恋ソングかな」みたいな期待もあるのかなって。
——ちなみにネタが尽きることはない?
りりあ。:ないんですよ(笑)。一つの失恋、1人の相手に向けて何曲も書いたり。友達や近い人には「1人の人でいつまでコスってんの?」と言われることもあるんですけど(笑)、リスナーとしてもそういう曲に惹かれるんです。
——根っからの失恋ソング体質なんですね。オリジナル曲をリリースしはじめた頃は、どんな将来像を描いていたんですか?
りりあ。:あまり何も考えてなかったかもしれないです(笑)。メディアに出たくない、家からも出たくないという時期だったし、最初の曲をSNSで出したときは「バズっちゃった」くらいの感じで。なのでリリースから1年くらいはまったく実感がなかったんですよ。まだコロナ禍だったし、みんなも家から出づらい時期で。みんながSNSに集中しているタイミングだったのも逆によかったかもしれないです。
——SNSを介して、リスナー一人ひとりに伝わった。
りりあ。:そうですね。聴いてもらえていることがわかるようになったのは、ライブをやるようになってからだと思います。実際にみんなに会えるのはそこ(ライブ会場)しかないし、ずっとSNSで活動してきたぶん、ライブでしか味わえないことがあるなって。ファンのみんなは「りりあ。って本当にいるんだ」って思ったかもしれないし(笑)、私も「こんなにちゃんと聴いてもらえているんだな」って実感できる。お互いに新しい道が開けた感覚があるんだと思います。
——「家を出たくない」と思っていたりりあ。さんがステージに立つのは、かなり大変だったのでは?
りりあ。:そうですね。プライベートの知り合いもSNSでつながっている人が多くて、以前は人と会うのが苦手でした。ライブも「やりたくないです」とずっと言っていたんですけど、いざやってみると思いのほか楽しかったんですよ。ライブに来てくれた方に「意外としゃべるんですね」ってよく言われるんです。配信ライブでもけっこうしゃべってるんですけど、初めての人はちょっとビックリするみたいで(笑)。最初はかなり緊張してたんですけどね。「りりあ。ちゃんが緊張してたから、私たちも緊張したよ」ってDMが来たり、ライブに参加するのが初めてという人もけっこういて。この前のツアー(2024年秋に行われた東名阪ツアー『約束』)は椅子席だったので、「いつ立てばいいかわからないだろうな」と思って、ライブ中に「ここで立って」って伝えたりもしました。やっていくなかで気づくこともあるし、やっぱりライブは面白いですね。
——性格もオープンになりそうですね。
りりあ。:だいぶ変わってきたと思います。最近はこうしてメディアで話す機会も増えたし、音楽の友達もできたり。ライブがなかったら、今も引きこもっていたかもしれないです。
「ずるい君。」では初の“片想いソング”に挑戦
——では、アルバム『軌跡』に収録された新曲について聞かせてください。アルバム1曲目の「幸せな約束。」はTVアニメ『わたしの幸せな結婚』第二期オープニング主題歌。切なくてかわいいラブソングだなと。
りりあ。:タイアップ楽曲は、原作に寄り添いながら、りりあ。としての世界観を守ることを意識していて。『わたしの幸せな結婚』は第一期もオープニング曲を担当させてもらったので、第二期のオープニングテーマの制作にあたって最初は「どうしようかな?」と考えたし、難しいところもありました。バッドエンドの曲だったらたぶんすぐに作れたと思うんですけど、幸せな曲なので。
——〈今こんなにも幸せなのが/少し怖いぐらい〉というフレーズ、りりあ。さんらしいですよね。
りりあ。:ありがとうございます。私としては「貴方の側に。」の続編のような気持ちで作ったんですよ。「貴方の側に。」には〈シンデレラストーリーは本当にありますか?〉という歌詞があるのですが、「幸せな約束。」は〈これがシンデレラストーリー/そんな幸せな約束。〉と締めていて。あとは原作のセリフーーたとえば〈今夜は月が綺麗ね〉などを入れつつ、りりあ。のアーティスト性からズレないことも心がけていました。アニメのファンの方に喜んでほしいのはもちろんですけど、りりあ。のファンの方にもしっかり伝えたいので。
——「あんたなんて。」も、まさにそういう曲ですよね。『らんま1/2』のファンにもすごく評価されているし、りりあ。らしい曲でもあって。
りりあ。:ありがたいです。『らんま1/2』は私の親世代の方々も観ていらっしゃるし、曲を聴いてもらえることも増えて。すごく嬉しいですね。
——視聴者やファンの反応もチェックしてますか?
りりあ。:ほとんどしないです。前はときどきエゴサしてたんですけど、メンタルが弱すぎて、傷ついちゃうことがあるので……。それはアンチということではなくて、的確なことを言ってくださるんですけど、「そうだよね」と思いつつ落ち込んでしまうというか。みなさんの反応については母が良いことだけを伝えてくれるので、そこは助かっています。でも、自分のライブの後はけっこうSNSを見ていますね。
——「ずるい君。」も切なさに溢れています。〈ねえ、あたしは初めてだったの〉というドキッとするフレーズもありますね。
りりあ。:初めての片想いソングです。ちょっと失恋に寄っちゃってますけど(笑)。もともと「ずるい君。」は「クリスマスソングを作りたい」というところから始まってるんです。イルミネーションを見たときに、〈あぁこんな時には/君のことを思い出す〉という歌詞が浮かんで。アレンジもそうですけど、クリスマスソングに振り切ってみたいなって。ふだんはめちゃくちゃ時間がかかるんですけど、この曲はすぐにできましたね。
——曲のイメージが明確だったんですね。「ずるい君。」の歌詞は想像で書いているんですか? それとも経験も入っている?
りりあ。:他の曲もそうなんですけど、大体8割が経験ですね。あとは友達の話がもとになっていたり。想像だけで作ることがあまりできなくて、タイアップの曲も実体験を混ぜたりしています。
——歌詞のためのメモなどもしているんですか?
りりあ。:してますね。あとはLINEの履歴を見返して、「こういうことを話してたのか」みたいなところから曲につながったり。……相手にとっては怖いかもしれないですけど(笑)、私のなかでは歌詞にするための教材みたいなものなので。