2024年を振り返るアニメ評論家座談会【後編】 アニメ視聴者層・受容方法の多様化
2025年のアニメ業界の展望
——最後に、来年のアニメ業界の展望についてお伺いしたいと思います。
渡邉:私は、先日情報が出た『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』がとても楽しみです。
杉本:そうですね。脚本に榎戸洋司さんがクレジットされていたので、『フリクリ』や『少女革命ウテナ』みたいな作品を期待しています。あとは、監督が鶴巻和哉さんなのも楽しみです。先行上映を300館規模でやるのもすごいことだと思います。
ガンダム新作『ジークアクス』に集うスタッフを解説 鶴巻和哉×榎戸洋司コンビへの期待
鶴巻和哉監督に、本格的にスポットライトが当たる日が来た。『機動戦士 Gundam GQuuuuuuX』(以下『ジークアクス』)の…
藤津:『GQuuuuuuX』はカラーとサンライズが作っていますが、去年『マクロス』シリーズの新作をサンライズが作るという発表もありました。河森正治さんが基本的にはサテライトを中心に仕事してたから『マクロス』シリーズはここしばらくはサテライトで作られてきたんですが、バンダイナムコのIPでもあるので、サンライズが作るのは不思議ではあるけど分からなくはない。そう思っていたらもっと不思議な組み合わせが出てきましたね(笑)。様々なところで指摘されていますけど、放送が日テレで、先行上映が東宝なんですよ。サンライズの作品は基本的に松竹で配給されることが多かったこともあり、『ガンダム』といえば伝統的に松竹だったわけです。2014年の『ガンダム Gのレコンギスタ』特別先行上映が東宝映像事業部配給という先例がありますが、今回はご時世というか、映画業界の力関係がいろいろ影響しているという印象が強いですね。
杉本:東宝と松竹の差はかなり明確になってしまっていて、作品をより売りたいのなら東宝で配給したほうがいいでしょうけど。映画市場的に東宝の一強状態が続きすぎていて、松竹も東映も頑張ってほしいところです。一方で東映アニメーションは絶好調ですよね。売上全体では過去最高の売り上げを記録しています。
藤津:そこも含めてちょっと新しい感じがしますね。ヒット作の『ARIA』など松竹もずっとアニメ製作を手掛けていて、劇場では配給も手掛けていた。それこそ京アニ作品も松竹が担当していました。松竹のほうがアニメに関しては先行していて、同時に東宝に対して補完的な役割を果たしてきましたが、作品のビジネススケールが大きくなると松竹を卒業してしまうこともあるのかなと。
杉本:来年の作品ではシャフトの『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ ワルプルギスの廻天』と梅津泰臣監督の『ヴァージン・パンク』が気になっています。久しぶりにすごいものが出るなと思って。『ヴァージン・パンク』のトレイラーを見たんですけど、ファーストカットからリアル作画がすごくて、「今時こんな描き方ができるんだ」という驚きがありました。『まどマギ』の「冬公開」が1~2月なのか11~12月なのかはわからないですが……(笑)。他には京都アニメーションの新作、『CITY THE ANIMATION』も情報が公開されましたね。今年は『響け!ユーフォニアム』や『Free!』など、2010年代から続くIPが一区切りついたことで京都アニメーションとしては新しいスタートになりますね。
藤津:シャフトの作品はどちらも注目ですね。他には『メイクアガール』は安田現象さんのインディペンデント作として注目されていますし、話題作としては『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』や『ベルサイユのばら』も控えています。
杉本:『ベルばら』は試写で観ました。大変面白かったです。 吉村愛監督が歌える役者を集めたみたいですね。脚本は金春智子さんで、お2人は昔ミュージカルアニメ『Dance with Devils』とかも手掛けていました。
藤津:僕も観ました。『Dance with Devils』は歌いながら演技をするタイプの正統派ミュージカルでしたが、『ベルばら』は音楽劇というまとめかたでした。おそらく企画書には、宝塚や『レ・ミゼラブル』といったタイトルが書いてあったに違いないと思いました(笑)。でも、その思い切りの良さがとても面白かったです。 原作のシチュエーションの選び方が明確で、感情の展開がしっかりと構成されています。長い物語なので、必要なエピソードをしっかる押さえて進行している感じですね。他に気になるのは『ヒプノシスマイク』の劇場版です。投票によってエンディングが変わるという仕組みらしいんですが、これがどういう技術でどういうふうに映像が作られているのか僕も詳しくわかってないです。昔『仮面ライダー龍騎』の特別編で投票でエンディングが変わるというのがありましたが……。
杉本:仕組みはともかく、ファンにどう受け入れられるかですね。揉めることなくうまくいくといいんですが……。
藤津:どうなるのでしょうね。面白いのは、監督が特撮出身で、『ウルトラマン』や実写版『パトレイバー』も手掛けた辻本貴則さんということです。最近はアニメ寄りの仕事が増えていて、これはどちらかというと制作本数が増えてきたことでアニメの監督が足りなくなってきたのではないかと思います。
渡邉:『GQuuuuuuX』先行上映の配給が東宝になることや『ベルばら』などにあらわれていると思いますが、今年現れたいくつかの特徴は来年も継続しそうな印象です。毎年この集まりは僕にとって忘年会みたいなものなんですが、全然気が抜けないですね(笑)。本日はどうもありがとうございました。