『閃光のハサウェイ』『花緑青』 アニメ映画エンドクレジット公開の文化・産業的意義とは?

アニメ映画エンドクレジット公開の文化的意義

 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下『キルケーの魔女』)、『クスノキの番人』『新劇場版銀魂 -吉原大炎上-』『花緑青が明ける日に』と、キャストやスタッフの名前が並んだエンドクレジットをネットで公開するアニメ映画が相次ぎ、ファンを喜ばせている。誰が原画を手がけていたとか、背景は誰が描いたとか、あのキャラクターの声は誰が演じていたといった情報を得られるからだが、こうした動きが増えることは、ファンが嬉しいだけでなく、文化であり産業としてのアニメの発展と継承に、実は大きな意味を持っている。

 1月30日公開のアニメ映画『キルケーの魔女』を観たファンは、キャラクターもメカも背景もハイクオリティで制作されていた映像に、誰がどのようにして描いたのだろうと興味を持ったことだろう。映画が終わって流れるエンドクレジットに目をこらして、名前を確かめようとしたかもしれない。それでも、どんどんとスクロールされて観逃してしまった情報もあるからと、パンフレットを買ってクレジットが掲載されていないことに気がついた。

 確かめたいなら映画を観返すしかないが、お金も時間もかかる上に膨大な名前がスクロールされていくため目で追えず、覚えきれない。だからといって撮影すれば「映画泥棒」になってパトランプ男に捕まってしまう。Blu-rayやDVDになるなり配信されるなりすれば再生しながら止めてメモできるが、そうなるのは半年〜1年先の話だ。

 こうした悩みに応える意味もあったのだろう。『キルケーの魔女』の公式サイドによってエンドクレジットがサイトに掲載されて、ファンはキャストやスタッフ、関わった会社の名前を確認することができた。話題にもなったことから映画の宣伝につながると考えたのか、後を追ってエンドクレジットを公開するアニメ映画も出た。

 『花緑青が明ける日』のように、3月6日の公開と同時にエンドクレジットが掲載された作品も出てきた。原画に『AKIRA』の作画監督で知られるなかむらたかしや、手描きのダイナミックなアニメーションを描くことで知られる大平晋也の名前があり、作画協力に押井守監督の『天使の卵』で独特な雰囲気作りに貢献した名倉靖博の名前もあって、これは見ておかなくてはと思った人もいそうだ。

 ファンにとって嬉しいエンドクレジットの公開だが、そこに名前が掲載されているクリエイターにとっても大きな意味を持っている。自分が参加していることを公認された情報として示すことができるからだ。

 どのような仕事をしているのかと尋ねてくる親戚に見せするのもよし、次の仕事を探すときに履歴として渡してもいい。実際、TVアニメで仕事をしている人たちは、放送を観てもらうなり録画して送るなりしてクレジットに載った名前を見てもらっている。

 スーパーアニメーターとして広く名前を知られた人ならいざしらず、多くのアニメーターにとってクレジットに名前が載っていることが仕事をした証明になる。そうした名前を参考にして、アニメの制作進行が仕事を頼むこともある。アニメーターの側で履歴として持って回って次の仕事を取るようなこともあるかもしれない。

 結果として人が流動して新しい作品が生まれてくるのだとしたら、クレジットはファンを楽しませるだけでなく、産業としてのアニメを継続し発展させる役割を果たしているといえる。素晴らしい業績をあげた人や会社の名前を記録するという意味で文化的な価値もある。

 それなら、アニメのスタッフクレジットがすべて集約されたデータベースのようなものを作れば便利だろうといった声も出そうだが、現時点で公的かつ決定的といえるものは存在していない。構築に手間もコストもかかり過ぎるからだ。「アニメスタッフデータベース」や「アニメ@wiki」があるではないかといった声も出そうだが、これらは有志が半ばボランティアで更新しているもので、あらゆる作品が網羅されているわけではない。

 クレジットの採録には、放送なり配信されたアニメのエンドクレジットを見ながらメモを取り、入力していく必要がある。その作業がどれだけ大変なのかは、日々放送されるアニメの本数を思えば分かるだろう。ボランティアの範疇を超えてしまうため、「アニメ@wiki」は2025年7月に有料化に踏み切った。それでも利用が途絶えないのは、アニメの制作サイドがスタッフの名前を調べるために利用したいからだ。

 文化庁が構築し、国立美術館国立アートリサーチセンターが引き継いだ「メディア芸術データベース」(※1)や、日本動画協会が推進した『アニメNEXT_100』の中で構築された「アニメ大全」(※2)のようなDBも存在しているが、元となるデータは今も個人が採録したものや、企業がサービスとして記録しているものを入手するかたちになっている。

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