『パリに咲くエトワール』は今を生きるすべての人へ 分断の世界に響く“平和への祈り”

『パリに咲くエトワール』の“平和への祈り”

 劇場アニメ『パリに咲くエトワール』が3月13日から公開される。1912年のパリを舞台に、画家を目指す少女・フジコ(當真あみ)と、なぎなたの名手でありながらバレエに憧れる少女・千鶴(嵐莉菜)が、異国の地で出会い、互いに支え合って夢を追いかける姿を描いた作品だ。

 時に悩み、壁にぶつかりながらも、周囲の人たちを巻き込みながら着実に前に進んでいく少女たちの成長物語かと思いきや、本作は実に様々な一面を見せる。例えば随所に挟まれるなぎなたによる迫力のアクションシーン。パリの華やかな街並みに影を落とす戦争の気配。パリで小さな画廊を経営する、自由でお調子者なフジコの叔父・若林(尾上松也)は登場するたび、どこか現実離れしたファンタジー要素を纏っている。

 それは本作が『ONE PIECE FILM RED』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手掛けてきた谷口悟朗監督の最新作であり、『魔女の宅急便』などスタジオジブリの様々な作品を手掛けてきた近藤勝也がキャラクター原案を、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『きみの色』の吉田玲子が脚本を担当していること抜きには語れない。三者三様の魅力が見事に組み合わさった、爽やかでなおかつ重厚な一作となっている。

谷口悟朗×近藤勝也×吉田玲子の奇跡のタッグ

 「もったいないの! じっとしていられなくって!」と、フジコの弾むような声がする。フジコの声を担当する當真あみの声が、まるで軽やかに飛び跳ねる鈴のように、100年前のパリの街角を駆け抜ける。

 迫りくる戦争の気配に追い立てられるかのように、必死に夢を追う2人の少女の声を、2025年のテレビドラマ『ちはやふるーめぐりー』(日本テレビ系)で競技かるたに青春をかける高校生を演じた當真あみと嵐莉菜が担ったのも、本作にとって幸運な出会いだったと言える。なぜ彼女が「じっとしていられない」のかと言うと、それまでの彼女を取り巻く環境が背景にある。当時はまだ、女性は結婚するのが当たり前とされていた時代だ。男兄弟は夢を自由に口にすることができても、フジコが抱く画家になる夢は、「花嫁修業」が大事とたしなめられ、笑われて終わってしまう。だからフジコは、パリで小さな画廊を構えようとする叔父に頼み込んで、パリについてきたのだ。

 これは彼女の夢の話だ。本作の冒頭は、フジコと千鶴がまだお互いを知らず、日本にいた頃、同じバレエの『ジゼル』の演目を見つめている場面から始まる。そこで2人の少女は、一瞬にして強烈な「夢」に魅入られてしまうのである。

 絵が好きなフジコは、舞台の上で踊るダンサーたちを見ながら夢中でペンを走らせた。やがて彼女が描いた踊り子たちは羽を生やし、妖精、あるいはフジコの分身となってスケッチブックを飛び出し、彼女の想像の、遥か彼方の空の下にある異国の地・パリへと飛んでいく。その妖精を追いかけるかのように、彼女は本物のパリの街へ降り立ったと言える。

 夢のその先には、たくさんの出会いが待っていた。例えばロシア出身の作曲家志望の少年・ルスラン(早乙女太一)と、彼の母で、元バレリーナのオルガ(門脇麦)との出会いは、フジコだけでなく、千鶴にとっても運命の出会いとなった。

 また、アパルトマンの自室に帰る途中で、マディさん(唐沢潤)から手作りのジャムをもらい、母に叱られて泣いている少年トマ(村瀬歩)を慰め、酔ったジャンヌ(名塚佳織)の愚痴を聞くという、フジコとアパルトマンの住民たちが織りなす日常の一コマは、自由を謳歌して生きる人々による、得難い多幸感で満ち溢れている。

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