吉沢亮の凄さは圧倒的な輝きと儚さを両立できること 『ばけばけ』錦織の壮絶なご奉公

『ばけばけ』錦織の壮絶なご奉公

 今度こそ、さよなら、錦織(吉沢亮)。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第23週「ゴブサタ、ニシコオリサン。」ではトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)がふたりの戸籍問題で松江に戻る。そこで再会した錦織はすっかりやつれていた。そんな錦織によるリテラリーアシスタントとしてヘブンへの最後の壮絶なご奉公。

 ヘブンは熊本に行ってから錦織とまったく連絡をとっていなかったようだ。モデルの小泉八雲と西田千太郎はたくさんの手紙のやりとりをしていたそうだが、ここはドラマチックに絶交のような形をとっている。松江に残ってほしいと請われたが、トキのために熊本にいったヘブン。さんざん便宜を図ってもらい、高給ももらっていたにもかかわらず、恩知らずとそしられても仕方ない。江藤県知事(佐野史郎)も錦織もヘブンとトキの戸籍問題解決に協力的ではない。「怒ってる?」とヘブンは子どものような態度で接するが、怒っているわけではない、ふたりは悲しい(寂しい)のだと思う。

 根っから嫌っているわけではないから、結果的に戸籍問題を解決する手助けをして、無事にトキは雨清水家の戸籍に入り直し(雨清水トキ=丑三つ時)、ヘブンはそこに婿入りできる(古事記に残る日本最古の和歌から文字をもらって雨清水八雲となる)。

 タエ(北川景子)も勘右衛門(小日向文世)も意外とすんなりOKした。タエは三之丞(板垣李光人)と、武家の出としての誇りにこだわり野垂れ死にしていたら、雨清水家が断絶して、トキが戻る家がなかったから、生きていてよかったとようやく自分たちの生を肯定する。このシーンでは、2015年度後期の朝ドラ『あさが来た』の終盤、波乱万丈に生きた主人公あさ(波瑠)と姉・はつ(宮﨑あおい)が、お家を守れたであろうかと半生を回想するシーンを思い出した。タエの凛とした感じこそヘブンが愛する日本人の心なのではないだろうか。籍の準備はできた。あとはヘブンが日本人の籍に入っていいか、知事のお墨付きをもらうのみ。でも知事も錦織も庄田(濱正悟)も協力してくれない。

 そんなとき、ヘブンは松江の朝の風景を見て、心が動かないことに焦りを覚える。日本に来たばかりのときはあんなにも心打たれた音や風景がいまでは響かない。そこに錦織が登場し、語りかける。

「正直に言いましょう。今のあなたには、もうこの国で何も感じることができない。何も書くこともできないんです。幻想を見ていた。日本という国に夢を見ていた。だがその夢から覚めてしまった」
「作家としてのあなたは死んだも同然。いや、死んだのです」

 かなり辛辣だった。でもそれは錦織の挑発で、ヘブンは反発して逆に一冊本を書き上げる。ぐずぐずして煮えきらないヘブンを発奮させ、日本人として生きる覚悟をもたせた錦織。自身はたくさん勉強してきたけれど大成することはなかった。でも、最後にヘブンの本に謝辞を入れてもらった。

To NISHIKOHRI YUICHI
IN DEAR REMEMBERANCE OF IZUMO DAYS

 こうして、錦織友一がたしかに松江に存在していたことが文字に刻まれたのだ。思えば、2019年度前期の朝ドラ『なつぞら』で吉沢亮が演じた天陽も、主人公・なつ(広瀬すず)に東京でアニメーターになる覚悟をさせる役回りだった。天陽の場合は地元で農民作家として生きるという彼独自の哲学を実践しながら志半ばで亡くなったのだが、才能のある人たちが輝くその影で、才能がなかったわけじゃないけれど、もっとやれたはずがやれないまま終わってしまった人たちがいる。吉沢亮はなぜ、そういう役がハマるのか。圧倒的な輝きの強度とその逆の儚さを併せ持っているからだ。自分の特性である顔の強さを自覚しているからこそ、13キロも減量してその力を弱めるわけだが、そうすればするほどさらに輝きが増してしまう。弱さと強さが同時に存在しているからこそ、才能があるのに志半ばで消えてしまう。そんな役が似合うのだろう。

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