“4K上映”ってどういうもの? 映画館はプロジェクターの“10年契約”に縛られている
東京は立川にある独立系シネコン、【極上音響上映】【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第51回は“4K上映ってどういうもの?”というテーマで。
4K上映対応のプロジェクターを導入する劇場がミニシアターにも増えてきたけれど、4Kってどういうものか書いてもらいたいというお題をいただきまして、確かに一般的にはあまり正しく伝わってないのかなと思いました。
この原因の大きな理由の1つと思われるのが、映画館の世界で「4K上映」という言葉を聞くのが、旧作の「4Kデジタルリマスター版」の際が一番多いということがあって、このことが「4K上映」をわかりにくくしているのではないか、と推察しています。
話を始める前に、まずざっくり「4K」とは何かを説明しますと、「K」は「キロ」のことで「1000」を意味します。つまり4K=4000ということです。Blu-rayの解像度が「横1920×縦1080ピクセル」で、長辺の画素数がだいたい2000なので「2K」。「4K」は倍の「3840×2160」となります。この数値はUHD Blu-rayのもので、映画のデータは正確には「DCI 4K」といって「4096x2160」となります。ここでは詳細な技術的な解説をするつもりはありませんので、縦横それぞれの数値が2倍なので「画質が良くなるんだろう」と感じていただければ結構です。
さて、ここまでは基本的な動画のソースの話です。ここから話が複雑になってきます。正しく「4K上映」になるには、動画が「4K」で制作された上でプレイヤーが「4K」に対応している必要があるわけです。4K対応テレビとか、4K対応プロジェクターですね。「素材」×「機材」で正式に成立です。
ただこれがややこしくなるわけです。まず上映素材がざっくり2つ存在します。「2K」と「4K」ですね。一見シンプルな話じゃないか、と思われますが……まず4Kデータがある新作映画でもまだ日本では4Kプロジェクターが浸透しきってないことから4Kデータと2Kデータと両方用意されます。大型の作品でなければ4Kデータが存在していても2Kデータしか用意されない場合もあります。つまり現在の上映状況は……
①「4K素材」×「4K機材」
②「4K素材」×「2K機材」
③「(4Kはあるけど)2K素材」×「4K機材」
④「(4Kはあるけど)2K素材」×「2K機材」
⑤「2K素材」×「4K機材」
⑥「2K素材」×「2K機材」
という組み合わせがあることになるわけです。これだけではありません。「4Kリマスター版」というものも存在します。これは前述の古い作品の35mmフィルムをスキャンしてデジタルデータ化して上映するというものです。
やっかいなことに、これもスキャン自体は4Kで行っても上映素材は2Kというパターンが存在します。
その上、劇場側の要素も加わり、この問題はさらに複雑化します。「上映素材」「上映機材」という要素の他にも、画質を決める大きな要素が以下のようにあります。それはその劇場の「プロジェクター機材の性能」「張っているスクリーンの質」「劇場の暗さ(足下灯等のスクリーンへの反射度合)」です。劇場関連では他にも映写角度、座席とスクリーンの角度なんかもありますが、これは画質とはちょっと異なるかも知れません
しかも、これだけではありません。当然ですが、そもそもの上映素材側の質もあります。データのフォーマットが4Kで、撮影も4K以上で行われていたとしても(その逆ですべて2Kだとしても)、カメラの性能、撮影監督の力量、最終データ化する際の機材の性能などもあるわけです。これらが良ければ、スペックを超えた「美麗さ」すらありえます。つまり「上映画質」というのはこれほど多数の要素が絡み合っているわけで、目安にこそなっても「4K上映」という一単語だけではとうてい決めきれないものなのです。なのでわかりづらいのかと思います。
僕が働いているシネマシティでは、例えば旧作の4Kリマスター上映を「都内唯一の正式な4K上映」と売りにしてきた経緯があるのでこれはあんまり言いたくないのですが、映画を仕事にしている僕らのような人間であっても、初鑑賞の映画を観てこれが4Kか2Kか見分けろ、と言われてもかなり困難であると言わざるを得ません。さすがに最前列よりも前に立って、洋画なら字幕のエッジを見たらわかると思います。ですが、ふつうに席に座って見なれない(自分の中で比較対象を持たない)作品の画面を見てもまず判断つかないというのが正直なところです。
これが正式8K上映(素材、機材ともに)ともなれば、2Kと比較するとさすがに違うんでしょうけどね。ただ、まだ一般に流通する映画でネイティブの8K素材というのはないと思います。あわせて8Kシネマプロジェクターも。8K対応のプロジェクター(テレビやモニターも)はもちろんかなり前からありますし、NHKや美術館・博物館なんかで実際に正式な8K映像をご覧になったことがある方も少なくないでしょうが、映画館に導入されるにはまだずいぶん先になることでしょう。