『セブン』を2025年に観ることの意味を考える リアリティを増す作品の世界観

『セブン』を2025年に観ることの意味

 卓越した映像美と鮮烈なテーマによって時代や社会の姿を切り取ってきた、映画界の巨匠デヴィッド・フィンチャー監督。そんな彼の長編映画2作目である『セブン』(1995年)の4K版が、全米公開30年の節目でIMAX期間限定上映されている。本記事では、このタイミングで、もう一度『セブン』という作品や、そのダークな世界観を振り返って、いままた新たに本作を観ることの意味を考えてみたい。

 数々の高いクオリティのCM作品で名を馳せながら、初長編監督作品にして挑戦的な試みをおこなった『エイリアン3』(1992年)が数々のトラブルから満足のいく内容にならず、興行的にも厳しい結果となったことで、一時映画界から離れていたデヴィッド・フィンチャー。『セブン』は、そんなフィンチャー監督の起死回生の一作となった。

 モーガン・フリーマン、ブラッド・ピットの巧みな演技や、陰惨な世界観を提供するアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーの脚本、ハワード・ショアによるホラー風のストイックな音楽へのアプローチ、一世を風靡したカイル・クーパーによるコラージュ風のオープニング編集、デヴィッド・フィンチャーの作り出した濃い陰影と、「銀残し」と呼ばれるレトロな手法による色彩設計、斬新なカット割りが生み出すスタイリッシュな映像表現など、野心と見どころがつまった、意欲的な傑作である。

 物語の舞台は、アメリカのどこかの都市。そこで生活を営むサマセット刑事(モーガン・フリーマン)は、さまざまな事件の捜査をしてきたベテランだが、陰惨な犯罪が絶えない毎日に嫌気がさし、人間を信じられなくなっている。そんなサマセットは新たな殺人事件を担当することになるのだが、その捜査に加わるのが、彼とは対照的に熱意に燃える新人刑事ミルズ(ブラッド・ピット)だ。

 二人の刑事は、肥満体の人物や拝金主義の弁護士などが猟奇的な方法で殺されたこと、双方の事件現場にメッセージがあったことに気づき、この二つの殺人事件を結びつける。洞察力に優れたサマセットは、この連続殺人事件の犯人が、「暴食」、「強欲」などを含む、カトリックにおける「七つの大罪」を犯行のモチーフにしていると考え始める。そんな異常な連続殺人が進行するなか、事件は思いもしなかった展開を迎える。

※以下、映画『セブン』の重要な展開やラストに至るまでの記述があります。

 「七つの大罪」をモチーフとした殺人なのだから、犯人の計画では7つの殺人をおこなうはずである。しかし、いまだ2つの「罪」を残したまま、ジョン・ドゥ(誰でもない人物を表す名前)が警察署に出頭してくる。この犯人ジョンを演じているのが、ケヴィン・スペイシーだ。

 『セブン』公開後、30年。この年月のなか、いろいろなことがあった。ケヴィン・スペイシーは、このジョン・ドゥ役が大きく評価され、その後も演技派俳優として脚光を浴びることとなった。『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)、『アメリカン・ビューティー』(1999年)、『ベイビー・ドライバー』(2017年)、ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』など、多くの話題作で才能を発揮し、監督業、プロデュース業にも従事した。

 だが、2017年にスペイシーは、4人の男性に対する7件の性的暴行と、2件の同意なしの性的行為で訴追されるという事態に陥り、裁判の結果を待たずして、ハリウッドの映画業界を追われることとなった。とはいえ、その後2023年に全ての件において無罪判決を受けるに至り、現在はヨーロッパで俳優業を再開し始めている。

 無罪を勝ち取ったのだからハリウッドはスペイシーを受け入れるべきだという考え方もあるだろうが、彼の場合は無罪になったとはいえ訴訟や示談に至った件数があまりに多いため、いまだ疑惑を持たれているという現実がある。リスクを抱えるのを嫌がるハリウッドでは、少なくとも現時点でスペイシーのイメージは出演者として引き受けるには困難、または時期尚早だと見ているようだ。今後、本格的な復帰があるかは不透明だが、今回『セブン』が再上映に至った背景に、彼の無罪判決があったこともまた事実だろう。(※)

 さて、そんなスペイシーの演技が光るのが最終局面だ。絶えず二人の刑事を翻弄してきたジョン・ドゥは、残りの殺人事件について情報を教えるという取引をし、拘束され自由が効かない身ながらも、サマセットとミルズを荒野へと連れ出し、事態は最終局面を迎える。彼の態度は、まさに神の使いになり変わって粛々と仕事を進めるといった風情だ。あからさまに常軌を逸したありきたりな演技ではなく、自分の判断に確信を持ちながら一連の仕事を楽しんでいるような素振りを見せるリアリティに引き込まれる。

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