『最強の軍師』になぜ“沼”ってしまうのか 『劇場版 忍たま乱太郎』ヒットの要因を紐解く

『最強の軍師』ロングランヒットの要因とは

 公開から1カ月半以上経過したにもかかわらず、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』(以下、『最強の軍師』)が2月3日発表の興収ランキングで追い上げを見せ、再び3位まで上昇。2月10日発表の最新ランキングでも6位をキープしている。ここまでロングランヒットしている背景として、週替わりで配布される劇場特典の存在はもちろん大きい。

『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』本予告

 本作で“沼った”ファンも多い中、『忍たま乱太郎』グッズは他のアニメに比べて比較的少ない。過去に販売されていたグッズはプレミア価格がつき、劇場売店で売られているグッズは公開後すぐに枯渇。1月17日から開始されたナンジャタウンのコラボイベントでも即物販が売り切れ、現在もイベント中であるにもかかわらず全ての商品の欠品状態が続いている状態だ。そんな背景もあって毎週ランダムで配布される映画特典グッズは人気が高いのかもしれない。リピーターが多いことに対する説明としては十分だ。しかし、『最強の軍師』がヒットし続ける最大の理由は、もちろん作品そのものにある。

※本稿には『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』のネタバレが記載されています。

“大人向けなシリアスな『忍たま』”として

 本作の大きな特徴は言わずもがな、プロットのシリアスさだ。タソガレドキ忍者隊の諸泉尊奈門に決闘を申し込まれた土井半助が、川に落ちて行方不明になってしまう。そして頭を強打し記憶を失くしてしまった彼が、忍術学園の対立勢力であるドクタケ忍者隊の軍師“天鬼”となって生徒たちの前に立ちはだかる。本作の原作となった同名小説は、発表当時から漫画にはないシリアスさが話題となっていた。現に、映画ではシリーズの中でもかなり珍しい“流血表現”もあり、天鬼と六年生らの命のやり取りにはヒヤヒヤさせられたものだ。

 もともと、忍術学園の生徒たちの日常ギャグを中心に描く『忍たま』だが、その舞台は室町時代末期。バリバリの戦国時代であり、生徒たちはゆくゆくタソガレドキ忍軍のように、どこかの城に仕えたり山田利吉のようにフリーランスで仕事をとったりするが、いずれにせよ常に命が危険にさらされる状況であることは言うまでもない。実際、六年生などの上級生はすでに実習で敵の城に忍び込むこともある。忍術学園の生徒が上級生になればなるほど数が減るのには、学費が払えなくなったり、家業を継ぐことになったりで辞める生徒が出るからなのだが、中には怪我をして忍者になることを諦めたり、命を落としたりした生徒がいなかったわけではない。

 ではなぜ、忍者が危険な仕事だと分かったうえで、中には忍者になる未来がはなから見えない子供も高い学費を払ったうえで入学しているのか。例えば、食いしん坊のしんべヱは実家が堺の大貿易商「福富屋」。いわゆるボンボンだが、そんな彼が忍術学園に入学したのは「(しんべヱに)機敏さを身につけてほしい」という父の意向だった。豪商であれば命を狙われる可能性も低くない……というより、この時代どんな場面においても突然死の危機に直面することがあるはず。親が高い学費を払って子供を忍術学園に入学させる背景には、立派な忍者になってほしいという気持ち以上に、“生き延びる術を身につけてほしい”という願いが込められているように思うのだ。

 『最強の軍師』では、そんなシビアな時代を生徒たちが生きていることが強調されて描かれている。ドクタケ忍者隊首領である稗田八方斎も本作では土井同様に頭を強打したことで“冴えて”しまい、乱太郎、きり丸、しんべヱを天鬼に切り殺させようとする場面も。普段から忍術学園と敵対関係であるものの、子供の命を奪うことを厭わないキャラクターではなかった。そういった描写から、“本来は”こういう時代に「乱・きり・しん」たちが生きていることに気付かされるのだ。

 もちろん、土井捜索時に怪我人探しから遺体探しに切り替えようと話し合う上級生や、天鬼となった土井の命を奪おうとする雑渡昆奈門の判断など大人キャラクター周りのストーリーはシビア極まりない。それに加え、ドクタケの城下町に広がる貧困や、戦争孤児であるきり丸の過去の描写が「子供の頃に一応通ったことがあるから何となく知っているけど、詳しいわけではない」「子供向け作品だと思っていた」鑑賞者にとってギャップとなり、刺さったのではないだろうか。そして従来のファンにとっても刺さったのは、キャラクターの解像度がより上がるようなディテール描写だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる