ナチスを官能的に描いた『フィリップ』の新しさ 性愛を利用した復讐がたどり着く運命とは

ナチスを官能的に描く『フィリップ』を紹介

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週はモルモットを飼い始めた間瀬が『フィリップ』をプッシュします。

『フィリップ』

『フィリップ』
 編集者として映画を扱う仕事をする上で、企画を考えたり面白い人に会ったり、楽しいことはたくさんあるのですが、その中でも私は「試写」が大好きです。それは仕事関係の通知が鳴り止まないスマホの電源を合法的に切ることができるから……というのは冗談ですが、業務として普段は全く興味がない映画を観ることになるからです。

 その中で気づいたことの一つが、「ナチス」を題材にした映画が実は毎年、想像する以上の数が作られているということ。そこで今回は、ナチスを題材にした映画として6月21日公開の『フィリップ』が面白かったので、紹介しようと思います。

 一口に「ナチス」を題材にしていると言っても、当たり前ですがそれぞれ映画ごとに切り口が異なります。2023年に公開された作品だけでも、監禁された公証人がナチスにチェスで心理戦を仕掛ける『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』、ナチス・ドイツに祖国を焼かれたフィンランドで“絶対に死なない”伝説の老兵がナチス兵とバトルする『SISU/シス 不死身の男』、ユダヤ人問題についてビジネスのように話し合い、大量虐殺に対して反論する者が誰一人いない会議を映し出した『ヒトラーのための虐殺会議』、アウシュビッツからの生還者が衝撃の実話を明かす『アウシュヴィッツの生還者』などなど……といったような感じです。

 そしておそらく、最近観たナチス系の映画を挙げるとなると、多くの人が5月24日に公開されたばかりの『関心領域』になるのではないでしょうか。1945年にアウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らしていた家族の“無関心”を映し出した本作は、とにかく衝撃的で恐ろしいものでした。劇映画としての賛否は分かれるかもしれませんが、ある種のインスタレーションとして、本作を観ることによって自身の“関心領域”を自省させられるような、観客に訴えかけてくる力のある作品でした。

5月24日(金)公開『関心領域』特別映像

 それでは『フィリップ』はどうかというと、「復讐者から見たナチス」を“官能的に”映していました。1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、恋人や家族、親戚をナチスによる銃撃で目の前で殺されてしまいます。その後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働くことに。自身をフランス人と偽り、戦場に夫を送り出して孤独にしているナチス将校の妻たちを次々と誘惑することで、ナチスへの復讐を果たしていきます。やがて知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い、愛し合うようになるのですが、戦争は容赦なく2人の間を引き裂いていく……。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「週末映画館でこれ観よう!」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる