『ヒーローではないけれど』が描く現代人の悩み チャン・ギヨンがロマンス職人の本領発揮

『ヒーローではないけれど』から目が離せない

 Netflixで5月4日より配信中の『ヒーローではないけれど』が面白い。超能力者を描いたスーパーヒーローものながら、現代病で能力をなくした超能力一家が、悩み苦しむ様子がこれまでのヒーローものとは違っている。本作は、現代人が抱える悩みや葛藤から成長していく姿に恋愛を絡めたファンタジーロマンス作品だ。

 主演を務めるのは、兵役除隊後初の復帰作となるチャン・ギヨン。チャン・ギヨンは、2012年にモデルデビュー後、2014年にドラマ『大丈夫、愛だ』でドラマ初出演を果たし、以降、2017年『ゴー・バック夫婦』の最強2番手男子役や、『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』でのヴィラン役、2021年『九尾の狐とキケンな同居』のシン・ウヨ役など、数々の作品で視聴者をハラハラさせたり、メロメロにさせたりしてきた。3年ぶりの復帰作に選んだのは、ファンタジーロマンスで、相手役であるヒロインを務めるのは、『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』『有益な詐欺』のチョン・ウヒだ。チョン・ウヒは、演じる役によってガラリと雰囲気が変わる俳優のひとりであり、本作では超能力一家と出会う運命の女性を演じている。本稿では第1話~第4話を中心にご紹介したい。(以下、ネタバレあり)

 チャン・ギヨン演じるポク・ギジュは、元消防士の超能力者だが、妻を事故で亡くしたショックでうつ病になり自暴自棄な暮らしをしている。ギジュはタイムトラベル能力を持っており、ギジュの家族は、夢で未来を視ることができる“予知夢”能力者の母マヌム(コ・ドゥシム)、飛行能力を持ち、空を飛ぶことができる姉ドンヒ(スヒョン)、目を見ると人の心が読めるギジュの娘イナ(パク・ソイ)、婿養子で超能力は持たない父スング(オ・マンソク)といった超能力一家だ。しかし、一家は不眠症、過食症、スマホ中毒などの現代病にかかり、それぞれの超能力を失くしてしまっていた。

 ある日、一家は海へ行くのだが、ギジュが突然姿を消し、海で溺れてしまう。そこへ居合わせたチョン・ウヒ演じるト・ダヘがギジュを救出する。名前を告げずに去ってしまうダヘだが、マヌムの通うマッサージ店でダヘとマヌムが再会を果たす。

 マヌムは、すっかりダヘのことを気に入り、自暴自棄になっている息子のギジュと結婚させたいと思い、ダヘをギジュに近づける。ギジュは、うつ病で酒浸りになっており、娘イナとの仲もうまくいっていなかった。

 一方のダヘは、家族に先立たれた天涯孤独の身で、亡き父の借金を返すために詐欺師一家の一員として暮らしており、マヌムに近づいたのは詐欺のためだった。ダヘはこれまでも一家で男たちを騙し、結婚しては離婚をすることで借金返済をしていたのだ。資産家であるマヌムの家に招かれたダヘは、ギジュと結婚して資産を奪うために行動を起こす。

 そうとは知らぬギジュたちは、それぞれダヘと出会ってから超能力が戻り始めることに気がつく。不眠症で予知夢を視れないマヌムは、ダヘがお茶に入れた睡眠薬により、知らずぐっすりと眠り予知夢を見る。ギジュは、これまで過去に戻れても、過去に干渉することはできず無力感を感じていたが、タイムトラベル先にダヘがいると、干渉することができるようになる。さらに、飛べなかったドンヒまで、ダヘがこっそりドンヒを見ていると、浮くことができてしまうのだ。

 超能力者でありながら、不眠症を抱え、うつ病にかかり、自制がきかず食べすぎて肥満になっているという現代病を抱えるギジュの家族たち。マヌムもギジュも、未来を見たり、過去に行くことはできても、それを人助けに使うことができず無力感と虚しさを感じていた。そこにダヘが現れ、一家の能力を役立てることができそうな予感を感じ始める。

 スーパーヒーローもので、強いヒーローが弱者を助ける物語は、今や過去の物になりつつある。現代では、ヒーローもひとりの悩める人間であり、それを克服し、成長していく姿に人の心は動かされる。憧れのヒーローも、内面には同じものを抱えていると知り、共に頑張ろうと励まし、応援したくなる。感情移入しながら、自分自身も一緒に癒されていくのだ。

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