『ムービング』が『イカゲーム』以来の歴史的快挙! 第60回百想芸術大賞の結果を振り返る

第60回百想芸術大賞の結果を振り返る

 TV・映画・演劇を網羅する国内で唯一の総合芸術授賞式で、韓国のゴールデングローブ賞と称される百想芸術大賞。審査対象となるのは2023年4月1日〜2024年3月31日の期間に地上波・総合編成チャンネル・ケーブルチャンネル・OTT(動画配信サービス)・Webで提供されたコンテンツだ。今年は5月7日に開催され、60回目を迎えた。本稿では、TV部門の受賞結果とともに、授賞式の印象的なシーンを振り返る。

 近年ではOTTに勢いがあり、昨年は『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』をはじめとしたNetflix作品が7作品10部門で最多受賞した。そして今年の大賞に輝いたのは『ムービング』(ディズニープラス)。最多7部門にノミネート、脚本賞、男性新人俳優賞と3冠を手にした。OTTオリジナルシリーズが大賞を取ったのは2022年の『イカゲーム』以降、2度目の快挙である。

 『ムービング』は、アジアコンテンツ&グローバルOTTアワードでも最多6部門を受賞するなど、“Kヒーロー”ものの新しい歴史を残したと言われ、大賞を予想する声が多く聞かれた中での結果だった。また、脚本賞を受賞したカン・プルは原作者であり自ら台本を執筆。複数の登場人物のストーリーが並行して進む展開、キャラクター設定やメッセージ性などの脚本の完成度以外にも、ウェブトゥーン作家が台本を担当して成功した事例として新しい道への貢献度も認められた。

 今年は地上波局も健闘を見せ、『恋人〜あの日聞いた花の咲く音〜』からは作品賞、男性最優秀演技賞にナムグン・ミンが選ばれ、『夜に咲く花』からはイ・ハニが女性最優秀演技賞を受賞。この2作品はMBCで放送され、時代劇ドラマの根強い人気と実力を証明した。

ナムグン・ミン(写真:アフロ)

 最優秀演技賞を受賞したナムグン・ミンは「百想芸術大賞に何度も来たが座っていただけでした。今日は舞台に立てて嬉しい」と落ち着いた様子で語るも、喜びを噛み締めている表情が見えた。

 痛快でコミカルな時代劇『夜に咲く花』で最優秀演技賞に選ばれたイ・ハニは、昼間は朝鮮最高の名家の嫁、夜は正義のために戦う未亡人を熱演した。「産後6カ月でワイヤーを使って屋根を飛び回りながら刀を振り回していた。信じられない状況だったけど、台本を読んで挑戦を止めることができませんでした」、「二度とアクションはやらないと誓いましたが、このような賞をいただいて悩んでいる」など役者としての情熱と喜びを伝えた。一方で、「家庭を持ち子供を産み、夢を追いかけることが自分勝手なのではないかと何度も思いました」と支えてくれた家族への感謝を述べながら、母としての葛藤も吐露していたのが印象的だった。

 60回目という節目を迎えた百想芸術大賞は、これまでの軌跡や思いが詰まった演出がされた。“あなたにとって百想大賞とは”というテーマに、役者、新人俳優、コメディアン、映画監督、プロデューサーが答える。キム・ヘジャ、イ・ジュノ(2PM)、ユ・ジェソクらが「一度は来たかった夢にみた授賞式」、「作品の価値を認めてもらえる瞬間」、「カメラの前に立つ人だけでなく、裏で支える人たちにもスポットライトを当てた授賞式」、「挑戦であり勇気と希望を与えてくれる」、「先が見えなかった道が間違っていなかったと思えた」など百想芸術大賞への特別な思いを語った。

 さらに特別ステージでは、韓国を代表する俳優イ・スンジェが登場。今年で90歳、デビュー69年目の俳優がオーディションを受けに来たという面白い構成だ。“あなたにとって芸術とは”をテーマに、面接官がいくつかの質問をする。

 「常に新しい作品、役柄に挑戦しなければならない。似ていても同じ役は存在しないし、勉強して常に研究するべきだ。演技を簡単に考えていた役者が数百人と去り、努力した者だけがここに残った。演技には完成がない。完成に向かって悩んで努力して挑戦するのが役者の宿命だ」(一部抜粋)。役者だけでなく、演出、脚本家、制作者たちが常に新しいものを追い続けている。この解答には、韓国コンテンツが発展した理由が詰まっているのではないだろうか。

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