“韓ドラの名手”脚本家イム・サンチュンの手腕 『椿の花咲く頃』と『おつかれさま』の共通点

母親と娘の人生を軸に描く、IU&パク・ボゴムの初共演作『おつかれさま』。自分の親の若い頃を想像してしまうような、どこか温かく懐かしい気持ちになる物語だ。
キャスト2人の話題性が強い『おつかれさま』だが、『椿の花咲く頃』の脚本家イム・サンチュンが手掛けていることも韓国ドラマ視聴者にとっては期待値が上がるポイントだったのではないだろうか。

『椿の花咲く頃』は最高視聴率23.8%と大ヒットを記録し、KBS演技大賞、百想芸術大賞、ソウルドラマアワードなど名立たる授賞式で数多くのトロフィーを獲得することになった人気作。物語は、一児の母ドンベク(コン・ヒョジン)が田舎町に越してくるところから始まる。彼女が居酒屋をオープンすると、そこは町の男たちがこぞってやって来る憩いの場になり、大盛況。夫人たちからの反感を買うこともあるものの、その地で何とか過ごしていた。そして6年後、地元に戻ってきた警察官のヨンシク(カン・ハヌル)と出会い、ドンベクの幸の薄かった人生が華やかに色付いていく。

このあらすじだけを読むと、田舎町を舞台にしたよくある“ヒューマンドラマ”と捉えられるかもしれないが、ここにミステリーが入ってくるところが本作の特徴の一つだ。物語の冒頭で変死体が発見される場面が描かれ、ヨンシクが絶望の表情を見せることから、町の誰かが何者かに殺されたことが推測できる。以前から似たような事件が多発しており、その犯人は“ジョーカー”と呼ばれていたが、未だ逮捕に至っていなかった。誰が誰を殺したのか? この謎が、ドンベクの生活を描くドラマの中で少しずつ明らかになっていくのだ。
また、恋愛とミステリーに加えて描かれるのは、人と人の温かなつながり。ドンベクに冷たかった町の人々も、次第に彼女を守る存在となる。不運な子だと言われて育ち、誰かの誇りだったことはないと言うドンベクは、語尾まではっきりと話せず、萎縮してしまう性格であるため、正反対のおばさまたちの標的になってしまう。しかし、最後には彼女の優しさと内なる強さが心を動かし、町全体をも動かす奇跡を生み出す。ドンベクにどんな事情があろうと真っ直ぐに気持ちを伝え続けたヨンシクの熱意も、町全体に伝染したとも言えるだろう。

さらに、幼いドンベクを捨てた母親とドンベクの関係性に焦点が当てられたり、ドンベクが息子ピルグ(キム・ガンフン)の父親と偶然再会したことから母と息子の関係性が大きく動いたり、親子だからこそ持てる愛情や「守りたい」という想いが浮き彫りになっていくのも特徴だ。怖いほどど直球で正義感のあるヨンシクと優しさを与え続けるドンベク、そして親たちの姿が、“生きること”を改めて考えるきっかけとなる。まさに“人生ドラマ”と言えるだろう。
『おつかれさま』でも、人間同士の愛が物語の主軸となっている。幼い頃からエスン(IU)だけを見てきたグァンシク(パク・ボゴム)は、母親を亡くして心の拠り所も無くなってしまった彼女の支えとなる。一方でエスンも自分の子供に愛情を注ぎながら、愛するグァンシクをいじめる人にも殴り込みに行く、家族の大きな柱となっている。