『ブギウギ』が踏み込んだ芸能界の光と闇 現在と地続きとなる“戦後”の秀逸な描写も

『ブギウギ』が踏み込んだ芸能界の光と闇

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ブギウギ』は「ブギの女王」と呼ばれた歌手・笠置シズ子をモデルにした福来スズ子(趣里)の生涯を描いたドラマだ。

 歌うことが好きなスズ子は小学校を卒業するとUSK(梅丸少女歌劇団)に入団。そして数年後に演出家の松永大星(新納慎也)に歌唱力を買われ、東京のUGD(梅丸楽劇団)にスカウトされる。東京で作曲家の羽鳥善一(草彅剛)のレッスンを受けて歌手としての才能を開花させたスズ子は、羽鳥の作曲した「ラッパと娘」「センチメンタル・ダイナ」といった曲を歌うことで人気歌手として成長していく。

 物語は大正15年から始まり、戦前の芸能界を舞台にスズ子が歌手として成長していく様子が描かれ、歌やダンスといったステージ上でのライブパフォーマンスが随所に挟み込まれる。

 第1話冒頭で見せたステージで歌う「東京ブギウギ」を皮切りに、歌唱場面が次々と登場し、スズ子が人間として成長していく内面の成長過程と、歌手としての表現力が向上していく様子がシンクロしているのが本作の面白さだ。そのため、ドラマであると同時に、歌あり踊りあり笑いありのバラエティショーを観ているような楽しさがある。

 脚本は、映画『百円の恋』や連続ドラマ『拾われた男』(ディズニープラス)の足立紳と、NHKよるドラ『あなたのブツがここに』の櫻井剛が担当している。足立も櫻井も、市井の人々の地に足のついた日常を描く泥臭い作風の脚本家だが、『ブギウギ』もスズ子を取り巻く大阪で庶民が助け合う下町共同体の描き方は古き良き人情ドラマとなっており、好感が持てる。

 同時に感心するのが、華やかな芸能界の裏で起きていた興行上のゴタゴタも包み隠さず描いていることだ。例えば第3~4週では、スズ子の所属するUSKが、不況の影響で賃金のカットと人員削減をおこなった際に団員たちが桃色争議と呼ばれるストライキを起こす場面が描かれた。本作がスタートした2023年はハリウッドでは全米脚本家組合と全米映画俳優組合が大規模なストライキを起きていたため、実際にストライキが起こすとこういう感じになるのかと、興味深く見ていた。また、スズ子が松永に誘われて梅丸から日宝に移籍しようとしたことで起きた移籍騒動も、やりとりこそコミカルに描かれていたが、芸能事務所間の引き抜きをめぐる攻防と移籍しようとしたタレントに対する制裁が生々しく描かれていた。

 2023年は旧ジャニーズ事務所の社長だった故ジャニー喜多川氏の性加害問題や宝塚歌劇団のいじめ問題といった芸能界の内部で起きたトラブルが表面化した年で、それらの事件をきっかけに、これまでうやむやにしていた芸能界やテレビ局で蔓延っていた忖度や暗黙のルールが露呈し、強い批判を浴びるケースが多かった。

 その余波は今年も続きそうだが『ブギウギ』を観ていると、戦前からの問題が解決せず、悪化していった結果が、現在のゴタゴタなのだと実感する。

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