『ブギウギ』笠置シヅ子に影響を与えた“エノケン”こと榎本健一とは? 史実から紐解く

 放送中の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)は、気がつけば早くも折り返し。昭和の大スターである笠置シヅ子をモデルとした主人公・スズ子(趣里)の物語とあって、本作には実在した人物がモデルとされるキャラクターが多く登場している。

 これから登場する“タナケン”こと棚橋健二もそのひとり。モデルと思われるのは昭和の喜劇王・“エノケン”こと榎本健一である。

 戦時下でも音楽の力で人々を元気づけてきたスズ子率いる「福来スズ子とその楽団」。本作はスズ子の人生にフォーカスするものだが、彼女が身を置いているのは芸能の世界だ。それも、やがて彼女はトップ・オブ・トップにまで上り詰める。なにせすでに「ブギの女王」などと呼ばれているのだから。

 つまりスズ子の人生を描くということは、昭和の芸能の世界を描くことだともいえる。だからあの時代を代表する人物たちをモデルにしたと思われるキャラクターが次々と登場するのは当然のこと。彼ら彼女ら本人のイメージを大切にしつつも、どれだけいまの時代観に適したキャラクターを提示できるのかが本作のカギでもある。スズ子役の趣里の胆大心小なパフォーマンスの数々は、私たちの期待をつねに超えてきた。ここから次のステップである。

 チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドといえば、「世界の三大喜劇王」として知られている。日本にも彼らの少し下の世代に、喜劇王が存在した。それが榎本健一なのだ。

 そのキャリアは東京・浅草から。のちに人気は全国区に広がり、“エノケン”の愛称で親しまれた。舞台や映画で“喜劇俳優”として活躍した人物だが、いま『ブギウギ』が描いている時代は戦中である。スズ子のパフォーマンスに制限が課されているように、この時代はエンターテイナーたちにとっては非常に苦しい時代だった。歌手なら歌で大衆を魅了すべきで、喜劇俳優ならば大いに人々を笑わせるべき。けれども彼ら彼女らの力は、国策を支えるものでなければならなかったのだ。

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