『GONIN』を観るのは今からでも遅くない! 90年代が焼き付けられた刹那的な美しさ

『GONIN』を観るのは今からでも遅くない

 話は変わるが、『新しき世界』(2013年)後の韓国ノワールは「ノワールのためのブロマンス」だったものが「ブロマンスのためのノワール」になった印象を受けた。ノワールのためのブロマンスならともかく、ブロマンスのためのノワールとなると話は少し変わってくる。それは同性愛的しぐさで客を釣っているだけではないか。無論、そんな単純な話ではないし、素晴らしい傑作もたくさんある。また、男同士の苛烈な関係が単一なものに限られるのも窮屈な話だ。だからこそ、(韓国ノワールに限らず)男同士の苛烈な関係性が恋愛に発展するノワール映画を観たことがないのはおかしな話だ。『GONIN』は90年代の映画ながら、そういったノワール映画に対するアンサーとして機能している。

 言葉でわかりやすく説明するような無粋な映画ではないので人によっては解釈がわかれるらしいが、『GONIN』は万代は三屋に一目惚れしているのが冒頭のシーンから理解できる。少なくとも自分はそう解釈した。だからこそ万代と三屋のキスシーンは突拍子もないシーンでもなければ意外性のあるセンセーショナルなシーンでもない。二人の男の刹那的な関わり合いの帰着として必然性を伴っている。断言するが、『GONIN』のキスシーンは今まで観たどの映画よりも美しいキスシーンだ。

 また、『GONIN』におけるバイオレンスもたまらなく素晴らしい。過剰でもなければ地味でもないソリッドな暴力に魅了される。特にビートたけし演じる殺し屋は異形の存在感を放っている。涼し気な目をしながら淡々と人を射殺する姿には惚れ惚れする。銃撃シーンの演出は無駄がなく、的確だ。『GONIN』を観れば、バイオレンスと人間ドラマは本来相反するものではないことがわかる。

 先述した通り『GONIN』は台詞で全てを説明するような無粋な映画ではないので、自分がここに書いたこととは違う印象を受ける人も多いだろう。なのでここで自分が書いたことのほとんどはどうでもよく、大事なのは自分と同じ後悔をしてほしくない。『GONIN』を観てくれということだ。担任の先生が言うところの暗い時代が今と比べてどれほど変わったのかはわからないが『GONIN』は90年代でないと存在しえない作品だったのは確かだ。今だからこそ時代を焼き付けるような彼らの生き様を観てほしい。

■リリース情報
『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション GONIN』
発売中
価格:3,630円(税込)
収録時間:本編109分+特典映像約125分
字幕:日本語字幕(本編のみ)
音声:日本語(オリジナル)リニアPCM(48Khz/24bit)ステレオ/日本語(ディレクターズ・カット版 オリジナル)リニアPCM(48Khz/16bit) ステレオ/日本語(ディレクターズ・カット版 オーディオコメンタリー)ドルビー ステレオ
製作年:1995年/日本
●初回生産限定・封入特典
ロビーカード風ポストカード
●映像特典
特報、予告篇、TVスポット
ディレクターズ・カット版(121分)
バリアフリー再生機能付き◆日本語字幕
●音声特典
ディレクターズ・カット版オーディオコメンタリー (鶴見辰吾、石井隆監督、佐々木原保志キャメラマン、阿知波孝助監督、喜多嶋舞)

出演:佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、椎名桔平、竹中直人、横山めぐみ、永島暎子、川上麻衣子、室田日出男、木村一八、永島敏行、鶴見辰吾、ビートたけし
監督・脚本:石井隆
撮影:佐々木原保志
音楽:安川午朗
発売・販売元:松竹
©1995 松竹株式会社 

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