『silent』放送から1年、TVerがドラマ界を席巻 個人視聴スタイルの定着を裏付ける急成長

TVerがドラマ界を席巻

 7月期ドラマでいうと、その筆頭が、池井戸潤の原作を中村倫也主演で映像化した『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)だろう。

 医療モノや刑事モノに強いテレビ朝日というイメージと、池井戸潤原作ということやタイトルから、物語が始まるまでは「田舎の消防団の人情モノ」や「熱い男たちのドラマ」のようなものをイメージした人も多かったろう。ところが、初回でいきなり不気味な連続放火事件が発覚、住民が行方不明になり、遺体で発見されるという物騒な展開が。

『ハヤブサ消防団』は全ての要素がハマった作品に 実力派キャストが生んだ物語の緩急

中村倫也主演のドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)の最終回放送から1週間が経過した。きっとまだ“ハヤブサロス”から立ち直れて…

 満島真之介、古川雄大、岡部たかし、梶原善、橋本じゅん、山本耕史、生瀬勝久など、誰が犯人でもおかしくない、全員巧くて全員濃くて全員怪しい状況に衝撃が走り、初回放送から1週間での再生回数は256万回を記録。

 そこからさらにミステリアスなヒロイン・川口春奈の妖しさが見え始め、「宗教」の存在が明らかになっていくと、「こういう話だと思わなかった」「ノーマークだったけど、観てみよう」という層がTVerから参入。

 正直、これがかつての視聴率軸のみの時代であれば、初回でとりこぼした視聴者がそれなりに多いことは、マイナスポイントになる。それだけに、第1話から視聴者をしっかりつかむためには、ミステリーというジャンルで、「放火事件」「殺人」「宗教」などが描かれる作品であることを放送開始前からもう少し匂わせる必要があっただろう。実際、かつてのゴールデン・プライム帯の連続ドラマは、一般視聴者が入りやすいよう、第1話の冒頭から世界観の説明を描写やナレーション、モノローグなどですることが多かった。「わかりやすさ」は、ワンパターンや、退屈さを生む要因でもあった。

 ところが、TVerで観るのが当たり前になると、初回で見逃してしまっても、評判を聞いて追いかけ視聴することもできるし、途中からの参戦もできる。その点、物語の世界観をあまり説明せずにいきなり始まる、ジャンルも先も読めない作品は、もともとアニメにはたくさんあった。しかし、アニメよりも視聴者層が幅広く、中高年層の多いドラマにおいて、「わかりやすさ」「親切設計」にとらわれず、攻めたチャレンジに挑めるのは、TVerの見逃し配信があるからこそだろう。

 それにしても、「医療モノ」「刑事モノ」など、わかりやすいジャンルの既視感あるドラマが量産されていたのは、ほんの数年前のこと。そこから配信が一気に浸透し、ドラマ枠も増えた今は地上波連続ドラマも、明らかに多様化し、様変わりしている。

 ちなみに、TVerでは現在、万城目学原作×玉木宏、綾瀬はるか出演の名作ドラマ『鹿男あをによし』(フジテレビ系)を期間限定配信中。これは、『のだめカンタービレ』(フジテレビ系)の再放送が9月27日まで放送されていたため、玉木宏関連かと思ったが、村瀬健プロデュース×生方美久脚本の『silent』チームによる、多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜の「クアトロ主演」ドラマ『いちばん好きな花』(フジテレビ系)が10月12日から始まることでの多部未華子関連なのだろう。

 非常に良く出来た作品だったにもかかわらず、震災を想起させる内容であることから再放送できないと言われてきた(真偽は不明)同作が、こうしてTVerで蘇るのも嬉しい効果だ。

 今後もTVerにより、ますますジャンル不明、行き先不明のチャレンジングな作品が増えること、地上波で観られない作品に再会できることを大いに期待したい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる