『長ぐつをはいたネコと9つの命』は映画館で観れば“ぶっ飛ぶ” 大人にも沁みる死の物語

『長ぐつをはいたネコと9つの命』は映画館で

 限りある貴重な時間をわざわざ映画館で費やすというのは、思えば奇妙な話だ。2時間薄暗いなかで人でぎゅうぎゅう詰めだったり映画は面白いかどうかわからなかったりで、時には2時間と1900円を無駄にしたと思えることもある。最悪の場合、隣席の人が愉快なおしゃべりだったりスマホを光らせたり光らせなかったりすることにやたら執心していたりする。そうなるとなにもかもが台無しだ。恐ろしいことに、そういったことはままある。しかし、それでも我々は映画館へ行くのを止めたりはしない。「なぜか?」なんて陳腐な問いは不要だろう。とにかく我々は赤の他人と肩を並べて2時間と1900円を無駄にする覚悟をしながら映画館へと向かう。そしてそういうあなたにこそオススメしたい映画が『長ぐつをはいたネコと9つの命』だ。

 めくるめくおとぎ話の世界へようこそ。それもちょっとダークだったりモフモフだったりで最高にイカしたやつ。本作は『シュレック』シリーズの流れを汲むスピンオフ映画『長ぐつをはいたネコ』(2011年)の続編だったりするが、そのことはさして気にする必要はない。そういった前提知識なしでもハイパー面白い映画だからだ。大抵の子供向け映画がそう作られているし、そもそも前作『長ぐつをはいたネコ』が10年以上前の映画なわけだし、それを10歳にも満たない子供に「この映画はスゴイ続編映画であり前提知識が凄まじく必要だから観ておけ」なんて無法なことはしない。

 というわけで「よくわからないけどシリーズを制覇してから観よう」とか考えて、その果てに気がついたら劇場公開が終わっていたなんてうっかりをやらかしそうなあなたに言っておく。今すぐ観ろ。間違ってもfilmarksで『長ぐつをはいたネコ』が配信されるVODサービスを調べようとするな。「オッNetflixにあるじゃん」じゃない。スマホを閉じて今すぐ映画館へ向かえ。なぜなら『長ぐつをはいたネコと9つの命』は超最高だからだ。間違いなくここ数年のアニメーション映画の中でもトップクラスの映像体験が味わえる、珠玉の傑作だからだ。これを映画館で観る機会を逃すという手はない(無論、既にシリーズを全制覇しつつ『長ぐつをはいたネコと9つの命』を観る完璧な予定と、それを完遂する鉄の意思があるのなら別だが)。

 傑作『長ぐつをはいたネコと9つの命』の洗練されたアニメーション表現は、2D表現と3D表現を絶妙にマッシュアップさせたところにある。これは『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)で試みたアニメーション表現の先にあるものだ。2D的表現と3DCGアニメーションを融合させることでアメコミの映像化として新たな境地を実現したように、『長ぐつをはいたネコと9つの命』では2D的表現と3DCGアニメーションの融合によっておとぎ話(絵本)の映像化として鮮烈なものとなっている。

 そして驚くべきはそのアクションシーンだ。『長ぐつをはいたネコと9つの命』のアクションは、実写映画含めて間違いなく2023年のベストアクションのひとつに数えられる。大胆だが怜悧な計算に裏打ちされた、感情をかきたてるカメラワーク。ケレン味のある演出に、愉快でスピード感のある振り付け。そしてアクションシーンになるとコマを落としたような動きになる演出は、アクションのドライブ感を生み出すと同時に絵本のページをめくるような感覚と絵本そのものが動き出すような感覚を与え、おとぎ話感を加速させる。と、まあ言葉を並べてもアクションは視覚的なものなわけだし、とにかく観てもらうしかない。とにかく自分は映画館で観てぶっ飛んだ。そしてあなたもぶっ飛んでほしい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる