『長ぐつをはいたネコと9つの命』は映画館で観れば“ぶっ飛ぶ” 大人にも沁みる死の物語
それからドリームワークス作品のほとんどがそうだが、子供向けだと舐めてかかると(むしろ子供むけだからこそ)凄まじい強度の物語にぶちのめされたりする。『長ぐつをはいたネコと9つの命』は9つの命を使い果たしたネコが己の「死」と向かい合う話だ。ふと寝る前になると死の恐怖におびえたりするのはなにも中学生の専売特許ではない。むしろ年を重ねれば重ねるほど、否応なくその死と向かい合わざるを得なくなるのではないだろうか。そういう意味では『長ぐつをはいたネコと9つの命』はお宝を巡るハチャメチャに楽しいアドベンチャー映画であると同時に、大人にとっても沁みる死の物語である。
そして本作において「死」の存在をより色濃く際立たせているのが最凶のヴィラン・ウルフ(ワグネル・モウラ/津田健次郎)の存在だ。『長ぐつをはいたネコと9つの命』が2023年のベストアクションのひとつに数えられるように、ウルフもまた2023年で至高のヴィランの一人である。ウルフはすごい。最高のヴィランに必要な要素を全て備えている。それはつまり超強く、超怖く、超かっこいいということ。おまけに二丁鎌を持っている。そう二丁鎌だ。それってすごくクールだ。鎌だし、それも二丁なのだから。
そんなウルフは賞金稼ぎとして登場し、9つの命を8つ使い果たしたプス(アントニオ・バンデラス/山本耕史)の前にあらわれ圧倒的な強さで襲い掛かる。手も足も出ない強さに、プスは生まれてはじめて死の恐怖を抱く。暗闇にギラギラ光る赤い瞳に、凶悪な形をした二丁鎌、そして日本語吹替版は囁くような津田健次郎ボイス。大変だ。オタクの命を刈り取るキャスティングとキャラクター造形をしている。プスの前にオタクが死にそうだ。前提として『長ぐつをはいたネコと9つの命』は魅力的なキャラクターが彩り豊かに存在する。そんな中で漆黒の存在感と格の高さと津田健次郎ボイスでブン殴ってくるウルフはやばい。キレ味の鋭いアクション演出もあってか、強烈な印象を観客に残す。そして『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、そんなウルフ(死)に向かいあう物語なのだから大人も子供もカタルシスと勇気を貰える作品となっている。
そして『長ぐつをはいたネコと9つの命』を観て改めて思う。果たして限りある人生、限りある命を2時間薄暗い劇場で過ごすことに費やしていいのだろうか? もちろんいいに決まっている。なぜなら『長ぐつをはいたネコと9つの命』のような作品と出会えるのだから。
■公開情報
『長ぐつをはいたネコと9つの命』
全国公開中
監督:ジョエル・クロフォード
声の出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ハーヴィー・ギレン、フローレンス・ピュー
日本語吹替版:山本耕史、土屋アンナ、中川翔子、小関裕太、木村昴、津田健次郎
配給:東宝東和、ギャガ
アメリカ/2022年/ カラー/スコープサイズ/5.1chデジタル/104分
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