『6秒間の軌跡』高橋一生×橋爪功、“似た者同士”の2人が生み出した幸せな時間

『6秒間の軌跡』高橋×橋爪の名演に寄せて

 航と星太郎を見ていると、ある映画のワンシーンを思い出す。山崎努と佐藤浩市が長い事会っていなかった父子を演じた相米慎二監督の『あ、春』において、一見そりが合わない父と子が庭でそれぞれに作業する姿が、背中の丸め方までそっくりで、斉藤由貴演じる妻が笑う場面である。航と星太郎は、似た者同士だ。前半の航は、星太郎が作り出した想像上の航だったために、兄弟のような意気投合ぶりも当然のことではある。だが、第9話における、まるで恋人に会いにいくかのようにソワソワしながら母に会いに行く星太郎の姿は、一度離婚した理代子を変わらず愛し続け、愛人となっていた父・航と明らかに「似た者同士」であることを示していた。

 似た者同士の父と子は、どこまで行っても話が尽きることがない。「本当に重要なことをわからなくしてすり替える」「重要そうに語られることに重要なことなんてなにもないんだ」と登場人物たちは頻繁に「重要なこと」と口にするが、取り留めもない彼らの会話こそが重要なのだろう。「楽しいなあ、こうやって話せてさ。生きてたらよ、こんな話してねえから」と第8話において航は言う。「ずっと2人で生きてきた」父子は、実はずっと彼らの物語の中心にいた「あの人」こと不在の母の話を心の中に納めたまま、つまりは「重要なこと」を話さないまま過ごしてきた。互いの「生きている時にもっと話しておけばよかった」という思いが形を為して、「星太郎が作り出した航」と「幽霊の航」という2つの存在ができあがったのだろう。特に、「星太郎が作り出した航」は花火に似ている。おどけて頭に花火玉を被っている時もあるし、消える時は、花火のような音を立てて消えていく。つまりは、本当なら、数秒間で消えてしまう儚い存在が、作り手である星太郎が望むために、その場所に佇み続けている。

「30年間を、言葉で語りあってわかりあえる? わかりあえた気になるだけよ」

 とは、第9話における、理代子の言葉である。この言葉は、果てしなくずっと「語りあってきた」本作並びに星太郎と航との日々が変わっていくことを予感させる言葉である。ただそこに留まり続けるのではなく、星太郎の人生にとって「今から始まること」つまりは「前に進んでいくこと」の大切さを、理代子は自分との関係性を通して示唆する。彼女は珈琲をゆっくりと淹れる。ポトンポトンと静かに溜まっていくそれは、失われていた母子の時間のようで、ゆっくりと構築していくのだろう2人のこれからの幸せな時間を予感させるものでもある。

「結局、記憶に残るのは、誰とどんな気持ちで見たか、そういうことなんじゃないですか」

 星太郎は本作最後の花火を、誰のために打ち上げ、誰とどんな気持ちで見るのだろうか。

■放送情報
土曜ナイトドラマ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:30〜0:00放送
出演:高橋一生、橋爪功、本田翼
脚本:橋部敦子
監督:藤田明二(テレビ朝日)、竹園元(テレビ朝日)、松尾崇(KADOKAWA)
ゼネラルプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、山形亮介(KADOKAWA)、新井宏美(KADOKAWA)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:KADOKAWA
©テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/6byoukannokiseki/
公式Twitter:@6secEx

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