『6秒間の軌跡』原田美枝子が体現する“理屈じゃない美しさ” 母と“出会い直した”星太郎
離婚した両親が自分の知らないところで“愛人関係”になっていた。幽霊の父・航(橋爪功)から衝撃の事実を告げられ、母親がいなくて寂しかった子どもの頃の気持ちが蔑ろにされたみたいでショックを受ける星太郎(高橋一生)。30年前に自分を置いて出て行った母・理代子(原田美枝子)への復讐を決意するが、果たして上手くいくのだろうか。
『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)第9話では、星太郎と理代子が30年ぶりに再会……ではなく、“出会い直す”。
星太郎が考えた復讐、それは理代子の現在の夫にすべてをぶちまけて夫婦関係を壊すことだった。たくさん食べてエネルギーを補給した星太郎は復讐に燃えるも、ひかり(本田翼)から陶芸家である夫の個展が開催されることを聞くやいなや急に意気消沈。こんなにも早く復讐の機会が得られるとも思っていなかったのだろう。一度は思い立ったら即行動を心がけるようになった星太郎だが、あっという間にいろいろ理由をつけては後回しにする癖が出てしまう。
そんな星太郎を上手く焚きつけるのがひかりだ。「やらない理由持ち出すの得意でしたもんね?」とひかりに小馬鹿にされ、星太郎は「やらないとは言ってない!」と返す。そして、さっそく翌日展覧会に乗り込むことになったのだが、渋々準備を始めた星太郎は着ていく服に今度は悩み始めるのだった。
だが、ここでも「迷うのは大して差がないからです」とひかりにバッサリ斬られる。最初はどうなることかと思われた同居生活だったが、ひかりの星太郎の扱い方も上手くなり、2人のやりとりもすっかり板についてきた。ひかりのことを、星太郎が作り出した空想上の航(つまりは星太郎)が「あの人(=母親)に似てない?」と言っていたことがあるが、2人の関係はまるで思春期の息子と母親みたいだ。
ひかりにはもう、分かっている。星太郎が夫の個展に行ったら、もしかしたら理代子に会えるかもしれないという期待を抱いていること。そしたら少しでも自分を良く見せたいと思っていることを。全部お見通しで、小っ恥ずかしくていつも以上にそわそわする星太郎が微笑ましい。
しかし、本物の母親である理代子の威力はさらに凄まじく、星太郎を一気に9歳の頃に引き戻してしまう。個展会場でばったり遭遇した星太郎を、何の躊躇いもなく抱きしめる理代子。その瞬間、ほんの僅かにあった復讐の色が星太郎から消えていくのを感じた。怒りより喜びが勝ってしまったのだろう。一度は走り去ってしまった星太郎だが、その足は再び理代子の元に向かう。
後日、1人で理代子の喫茶店を訪れた星太郎。相当緊張した面持ちだが、かたや理代子は彼が来ることを分かっていたかのように迎え入れる。以前、この喫茶店に来たことがあるひかりが「美しい人でした」と語るように理代子は美しい。でも、それは見た目の美しさというよりも存在の美しさ。ああ、この人には敵わないと思わせる不思議な力を理代子は持っている。なぜ航は一度自分と息子を捨てた理代子に再び惹かれたのか。何の説明もなく誰もが納得してしまう、理屈じゃない美しさを原田美枝子は体現する。