日本アニメが映画の世界市場を切り崩す? 『すずめの戸締まり』の評価で考える“現在地”
新海誠監督の『すずめの戸締まり』がベルリン国際映画祭のコンペティション部門に選ばれた。
世界3大国際映画祭の1つである同映画祭のコンペに、日本のアニメ映画が選ばれるのは21年ぶりのことで、これは大きな快挙である。
そして、2022年は、海外の映画館で高い興行成績を挙げるアニメ映画がいくつか誕生した。日本でも大ヒットを記録した『ONE PIECE FILM RED』と『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』、『劇場版 呪術廻戦 0』などが北米市場の週末興行収入ランクの上位に顔を出し、『THE FIRST SLAM DUNK』が今、韓国で200万人以上を動員し大ヒットしている。
2022年もアニメ映画が絶好調 だからこそ考えたいオリジナルアニメ映画の重要性
唐突ではあるが、1つクイズを出したい。 「日本で歴代最高興行収入を記録した映画のタイトルは?」 この答えはもちろん、202…
動画配信環境が世界的に普及する中、日本アニメの市場は大きく広がったと言われるが、映画市場でも日本アニメは存在感を増しているのではないか。日本の現在地を、映画と芸術性評価の両面から紐解いてみたい。
国際映画祭とは何か?
『すずめの戸締まり』の快挙について考える前に、そもそも映画祭とは世界の映画産業にとってどういうものかを確認したい。
映画祭とは文字通り映画の祭典だが、主に2つの機能を担っている。1つは作品の芸術性を評価し賞を授与するというクリエイティブな側面。もう1つはマーケット機能だ。世界中に数多くの映画祭が存在し、その全てがこうした機能を有するわけではないが、有名な国際映画祭は概ねこの2つの機能を主軸に運営されている。
アカデミー賞のような映画賞との違いは、簡単に言えば、アカデミー賞は通年で公開された映画の中から賞を選ぶのに対して、映画祭は応募から厳選されたものの中から賞を決める。そして、大抵の有名映画祭に並ぶラインナップは初上映、つまりこれから市場に対して売りたい作品が揃う。映画祭によっては、コンペ応募資格に世界初上映であること(ワールドプレミア)や、製作国以外の国では上映されていないこと(インターナショナルプレミア)が条件になっていることがある。
カンヌやヴェネチア、ベルリンなどの有名映画祭のコンペに選ばれる作品の大半は、ワールドプレミアだ。映画祭としても世界初上映の方が箔が付くからワールドプレミアを好むので、世界初上映の方がコンペに選ばれやすい傾向がある。実際、「インターナショナルプレミアでもいいけど、ワールドプレミアが望ましい」と募集要項に書いてあることが多い。
ちなみに、東京国際映画祭は、日本初上映である「ジャパンプレミア」が条件。だが、ワールドプレミアなら優先するとも書いてある。(※1)
だいたい、どこの国際映画祭でもこんな感じにワールドプレミア優先なので、映画祭での受賞を狙う作品はワールドプレミアで勝負することが一般的だ。新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、日本ではすでに公開されていて、他の国では公開されていないので「インターナショナルプレミア」となる。ベルリン国際映画祭はインターナショナルプレミアでも応募資格はあるが、やはりワールドプレミアを優先する傾向があるので、そのハンデを覆して選ばれたことになる。(※2)
マーケット機能については、多くの映画祭が上映だけでなく見本市を開催しているケースが多い。カンヌのフィルムマーケットは世界最大規模で、毎年何百社がブースを構え、1万人近くのバイヤーや関係者が世界中から訪れ、有望な新作が売買されている。ベルリンでは「ベルリン ヨーロピアン・フィルム・マーケット」という見本市を開催しており、ヨーロッパではカンヌに次ぐ規模のマーケットだ。
配給会社や映画を売りたい製作会社にとっては、コンペなどの表の賞レースよりもこちらのマーケットの方がメインの参加理由だったりする。もちろん、賞を受賞すればより売りやすくなるので、賞の結果も重要だが、賞レースに参加していない作品も多数売買される場所となっており、大きなマーケットを持つ国際映画祭は、世界の映画産業を動かす中心地と言っていい。もちろん、コンペで受賞すればそれだけ売買も活発になるので、映画を売りたい会社にとっても賞レースは非常に重要だ。