松たか子が向き合い続ける“演じること” 「素直に正直に嘘をつきたい」
脚本・野木亜紀子×演出・土井裕泰のタッグによるTBS正月ドラマ『スロウトレイン』が1月2日に放送される。第1報時から多くのドラマファンの注目を集めていた本作。お正月に相応しい豪華キャストが揃う中、多部未華子、松坂桃李との3姉妹弟の長女・葉子として、主演を務めるのは松たか子。野木が松を「当て書き」したというキャラクターをどう演じたのか。2024年末、本作の魅力をじっくりと聞いた。(編集部)
野木亜紀子脚本は「言葉が生き生きしている」
――最初に企画を聞いたときのお気持ちは?
松たか子(以下、松):演出の土井(裕泰)監督にはTBSの連続ドラマで大変お世話になっていて、その土井さんの“卒業制作”だとお声掛けいただいたので、それはもう是非是非と。私は野木(亜紀子)さんとご一緒するのは初めてなんですが、脚本を読んだら本当に面白くて。物語に大きな事件や裏切り、大どんでん返しがあるわけではないのに、とても感動したんです。それと同時に、自分の役がわりと地に足のついた人というか、しっかりと生きている人なので、自分がやって説得力が生まれるのかな、すごく難しいな、と思ったのを覚えています。それでも、こういうドラマを作ろうとしている。そこに参加できることがとても幸せだなと思って、撮影を楽しみに待っていました。
――初めて野木さんとご一緒されて、その人気たる所以、魅力はどこに感じましたか?
松:キャラクター作りももちろんしっかりされていますけど、とにかく言葉が生き生きしていて、本当にリアルな会話で紡がれている印象を受けました。だからテンポ感もすごくいいですし、読んでいても、喋っていても、つっかからないというか。終始、自然な会話で作られているのがすごいなと思いました。特別な言葉で何かを言い表したり、複雑な説明をしたりするようなことはなくて、とても優しい言葉で綴られているんです。それなのに言葉が生き生きしているというのは、読んでいてものすごく感じました。
――演じた葉子は当て書きだそうですが、ご自身に近いと感じる部分はありましたか?
松:自分ではわからなかったです。でも、読み合わせのときに野木さんから「当て書きです」と言われて、ということは、自分ではわからないけれども「そのままやればいいってこと?」と(笑)。葉子さんは傍から見れば「いろいろと背負って大変ね」と思われる女性ではあるけれど、「そこをわかって!」という人ではなくて、「そんなことは百も承知で、今日をどう生きようか」と考えられる人。「こうすればうまくいく」というところを目指すのではなく、「どうするどうする」と考えて、壁に当たったらあっち、また違う壁に当たったらこっちと迷路を進みながら、今日なり明日なりを生きようとする人なのかなって。それはすごく共感できるし、そんな役を私が演じることに対して野木さん、土井さんが「イメージが膨らむ」と思ってくださるのだとしたら、私もそうありたいなと思いました。
――妹弟役の多部未華子さん、松坂桃李さんとの共演はいかがでしたか?
松:松坂くんとは初めてで、多部さんとは去年(2023年)舞台で長くご一緒したんですけど、意外と舞台上で関わることが少なくて。「今度はドラマで姉妹役ができるのが楽しみだな」と思っていたのに、蓋を開けたら(多部演じる都子が)釜山に行っちゃうっていう(笑)。なので今回は松坂くんと行動することが多かったのですが、おふたりとも最高の妹であり、最高の弟でした。撮影中も「この場面どうしましょう?」といったことを話す必要がないくらい、“ただ居ること”のできる方たちだったので、居心地よく、本当に楽しかったです。
――とくに仲が深まったようなエピソードはありますか?
松:松坂くんと多部さんは年齢もほぼ一緒なのに全然話さないので、「仲悪いのかな」「触れちゃいけない関係なのかな」と思って気を使っていたんです。それでこっそり多部ちゃんに聞いたら、「なんなら恋人役もやっているし、仲いいですよ」と言われて、「早く言ってよぉ」みたいな(笑)。だから、本当に話さなくてもいい、無理をしなくてもいい関係性なんですよね。ただ、釜山ロケは曇りや雨が多くてたくさん待ち時間もあったので、そういうときに絆が深まったような気がします。みんなで楽しく待つことができたので、3人で釜山に行けてよかったです。
――編集者である葉子の元担当作家・百目鬼役は、星野源さんが演じています。
松:星野さんはいつも年末に某アワードでお会いしていましたが(笑)、お芝居の現場でご一緒するのは初めてで。知っているようで知らない方だったので、百目鬼先生とのやり取りは楽しかったですね。星野さんは野木さんのドラマもたくさん経験されていて、“ムード”をよくわかっていらっしゃる感じがしたので、そこに応えていけばいいんだ、会話をすればいいんだ、という安心感がありました。
――釜山ロケでは、韓国のスタッフさんとの交流もあったかと思います。
松:スタッフさんの印象は、日本と何も変わらなかったです。みなさんとっても元気だし、日本語のセリフがわからない中でも熱心にリハーサルを見ていて、職人さんだなと。私の勝手なイメージで、韓国の照明さんが入ると、ふわぁ~っと綺麗な映像になるのかなと思っていたんです。今思えば「素人か!」という感じですけど(笑)、芝居をずっと見てくださっていたので、本当に自然な画作りをしてくれて。「ここは大事なカットだな」というところは言葉を超えて感じ取って、グッと気合を入れてくださるようなこともありました。松坂くんと一緒にお餅のようなものを食べ歩くシーンでは、冷めて固くならないように、持ち道具の女性がまるで雛を温めるかのようにお餅を抱えて持っていてくれたんです。その姿があまりにかわいくてキュンとしたり、本当に素敵な光景がたくさんありました。とても協力的で、日本のスタッフさんと何も変わらない。お互いに学べることもあるでしょうし、今後も交流があるといいなと思いました。