日本アニメが映画の世界市場を切り崩す? 『すずめの戸締まり』の評価で考える“現在地”

日本アニメが映画の世界市場を切り崩す?

日本アニメと国際映画祭

 『すずめの戸締まり』は、日本アニメとして『千と千尋の神隠し』以来、21年振りのコンペ参加だ。久しぶりの快挙なわけだが、そもそもこうした有名国際映画祭にアニメーション作品が選ばれること自体が珍しい。

 実際、この21年間にベルリンのコンペに選ばれたアニメーション作品は、2018年のウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』、2017年の中国アニメーション『Have a Nice Day』、2011年のミシェル・オスロ監督『夜のとばりの物語』の3本のみ。毎年、20本前後の作品がコンペに選ばれる中、たったこれだけなのだ。

『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

 なぜアニメーションが選ばれないのか、いろいろ複雑な理由があるのだろうが、事実上、国際映画祭は実写映画を評する場になっていることは確かだ。映画祭の賞は、毎年選ばれる映画人の審査員によって決められるが、そのメンバーはほとんどが実写映画の有名監督や俳優、プロデューサーである。

 そういう環境なので、アニメーション作品が受賞するのは、かなり珍しいことだ。『犬ヶ島』は銀熊賞という次点の賞を獲得しているが、ウェス・アンダーソン監督は実写映画でも実績を残している作家だ。一方で、宮﨑駿監督はアニメ専門の作家であり、『千と千尋の神隠し』が最高賞である金熊賞を受賞したことは、同映画祭の歴史の中でも極めて異例のことだ。

 映画祭にはアニメーションを専門とするアニメーション映画祭もある。アニメーション映画祭は、実写中心の映画祭との差別化を図るためか、実写にはないユニークな運動を評価する場という側面が強い。アニメーション映画祭で高い実績を残してきた日本の作家といえば、湯浅政明監督や山村浩二監督が挙げられるが、自由闊達な運動をアニメーションで生み出すこの2人のような作家がアニメーション映画祭では高く評価される傾向がある。そのように、実写中心の国際映画祭とアニメーション映画祭はなんとなく棲み分けているのだ。

『千と千尋の神隠し』©2001 Studio Ghibli・NDDTM

 そのように棲み分けられている世界の中、日本アニメはベルリンの『千と千尋の神隠し』を皮切りに、カンヌに押井守監督『イノセンス』(2004年)を、ヴェネチアに今敏監督『パプリカ』(2006年)、宮﨑駿監督『ハウルの動く城』(2004年)、『崖の上のポニョ』(2008年)、『風立ちぬ』(2013年)、押井守監督『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』が選ばれた。ここ20年では、日本以外の国のアニメーション作品は、カンヌに『シュレック2』(2004年)、『ペルセポリス』(2007年)、『戦場でワルツを』(2008年)、ヴェネチアには香港の『チェリー・レイン7番地』(2019年)など数本しかないことを考えると、日本アニメの実績はなかなに高いと言えるが、このブームも2000年代で終息してしまった。

 新海誠の『すずめの戸締まり』は、こうした先達の巨匠に並ぶ快挙だ。『千と千尋の神隠し』が日本アニメへの注目を広げたのと同様、『すずめの戸締まり』が再び国際映画祭の目をアニメーションに向けさせるきっかけとなるかもしれない。

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 ちなみに、『すずめの戸締まり』がベルリンに選ばれた背景は、作品の高評価は大前提だが、ヨーロッパ屈指の映画配給・セールス会社「ワイルドバンチ」と契約したことも大きいはずだ。いくら作品が優秀でも、プログラマーの目に留まらないことには選ばれないわけで、こういう力あるセールス会社と契約することで作品を観てもらいやすくなるということはあるだろう。是枝裕和監督のパルムドール受賞作『万引き家族』もワイルドバンチが海外セールスを手掛けている。

 国際映画祭への参加といえば、近年は細田守監督が積極的だ。直近2作がカンヌのコンペ外部門に選ばれているが、フランスのシャレードという会社が海外セールスを担当していることも後押しになっていると思われる。

 要約すれば、実写中心の映画祭では日本アニメ(というかアニメーション全体)はいまだ「アウェイ」だが、その壁を曲がりなりにも何度か崩した実績があり、一部の作家が有力なセールス会社にも注目され始めている、といったところだろう。

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