『スロウトレイン』『片思い世界』 2025年、坂元裕二&野木亜紀子作品の密接な繋がり
坂元裕二と野木亜紀子は、ドラマファンがもっとも注目している脚本家だが、2025年に発表予定の作品を観ていると、2人が頻繁に組んでいる俳優や監督を交換した作品が発表されるという面白い現象が起こっている。
まず、1月2日に放送される野木亜紀子脚本の新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)は鎌倉で暮らす両親と祖父母を亡くした3人の姉弟の物語で、長女のフリー編集者・渋谷葉子を演じるのは松たか子。
連続ドラマ『カルテット』(TBS系)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)、SPドラマ『スイッチ』(テレビ朝日系)といった坂元裕二作品の常連として知られる松たか子だが、野木脚本のドラマ出演は今回が初めて。
制作発表会見で、松は「地に足のついた人」だと葉子を語り、「“地に足のついていない”役をこれまで演じてきた私が演じて共感してもらえるだろうか」と苦笑いしたそうだ。
確かに『カルテット』などの坂元裕二作品で松が演じたのは、大人でありながら、どこか浮世離れしたミステリアスな女性だった。
今回の葉子は「当て書き」だったそうだが「地に足のついた」女性の役を松にオファーするところに、野木の作家性が強く出ているように感じた。
2024年に公開された野木脚本の映画『ラストマイル』で主役を演じた満島ひかりも坂元裕二作品の常連だが、彼女が演じたのはロジスティックセンターを管理するセンター長というホワイトカラーの管理職で、今まで彼女が演じてこなかった役柄だ。
坂元裕二作品における松たか子や満島ひかりが、男から見た理解できないがゆえに魅力的な他者性の強い女性であったのに対し、野木亜紀子作品で演じる松と満島は、地に足のついた仕事のできる女性となっている。
役者の「当て書き」の上手さはドラマ脚本家を語る上での重要な評価軸だが、満島ひかりと松たか子に真逆と言える役を「当て書き」しているのは、野木と坂元の作家性の違いが強く表れていると言えるかもしれない。
また『スロウトレイン』は、『カルテット』のチーフ演出だった土井裕泰が担当している。坂元と土井が組んだ作品というと2021年の映画『花束みたいな恋をした』の大ヒットが記憶に新しい。
対して、野木と土井はテレビドラマでは『空飛ぶ広報室』(TBS系)、『重版出来!』(TBS系)、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)、映画では『罪の声』で組んでいるが、オリジナルドラマは今回の『スロウトレイン』が初めて。
近年はクライム・サスペンスの名手というイメージが定着して久しい野木だが、『スロウトレイン』は『逃げ恥』以来の、現代の家族を描いたホームドラマとなりそうである。
坂元も野木も、女性差別、貧富の格差、ハラスメントといった社会問題を物語に絡めることで、高い評価を獲得してきた。だが、社会問題に対する2人のアプローチは真逆だと言える言える。