『千と千尋の神隠し』はいかにして興行収入300億円を突破した? 公開当時を振り返る
ここ数週間、ネット上を含めたメディア各種でアニメ映画『千と千尋の神隠し』(2001年)のタイトルを目にすることが多い。言うまでもなく、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(2020年)の大ヒットぶりに絡めてである。映画を観に訪れた観客が、興行側に払うお金(前売り券、当日券を問わない映画鑑賞券)の合計金額を興行収入と呼ぶが、日本国内における歴代興行収入作品の第1位は、目下『千と千尋の神隠し』の308億円だ。この映画はなぜそこまでの興行成績をあげられたのだろうか? この機会に公開当時の情勢を絡めながら振り返ってみたい。
改めて情報を整理しよう。『千と千尋の神隠し』は、『天空の城ラピュタ』(1986年)より始まったスタジオジブリ制作の長編アニメ第11作目で、原作・脚本・監督の3役を宮崎駿が兼任。2001年7月に日本で公開されて大ヒットし、同年さまざまな国内の映画賞を受賞。翌2002年には日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞。日本では1年ものロングラン上映となった。海外ではディズニー配給のもと英語吹替版が上映されると、世界各国でも絶賛の声が挙がり、日本国外の映画賞も次々と受賞。2003年にはついに第75回アカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞するまでに至った。
この映画の国内ヒットの背景にはいくつかの要素が考えられる。まず2000年を境目にシネマコンプレックス、通称シネコンの普及が目覚ましかったこと。ひとつの施設内に複数のスクリーンを擁するシネコンは、観客動員が見込める映画に多くのスクリーンを充てることができるので、1日あたりの上映回数が増える。上映スケジュールが多ければ多いほど、それだけ大勢の観客が1日にそのヒット作を観ることができるわけだ。
もうひとつは、ネットの普及率が今ほどではなく、テレビの影響力がずっと大きい時代の映画だったこと。ジブリと縁の深い日本テレビを中心に、大量のテレビCMを流して映画を周知させるメディアの力が強かった点だ。SNSが発達した今でこそ、著名人の感想に端を発する口コミでヒットに繋がってゆく映画は多い。『この世界の片隅に』(2016年)や、『若おかみは小学生!』(2018年)などは、まさにTwitterの口コミを通じて上映館の拡大と観客動員が伸びていったアニメ映画といえるだろう。『千と千尋の神隠し』は、そういうネットの影響力に頼らないヒット作だったことには留意したい。
『千と千尋の神隠し』の前に宮崎駿が監督した『もののけ姫』(1997年)もまた、凄まじい作画密度の映像と、自然界の神と人との在り方を問うドラマが人々の感動を呼び、133分という長尺な上映時間にもかかわらず大成功をおさめた。宮崎駿監督が、スタジオジブリが次はどんな映画を作るだろうかと注目度が大きく上がっていたことだろう。ちょうど『君の名は。』(2016年)の全国的な大ヒットの後で、新海誠監督の次回作に期待と注目が集まったように。そういったジブリ映画新作への大きな期待感、町の映画館からシネコンへの過渡期、メディアの影響力という複数の要因がヒットに拍車をかけたことは疑いようもない。