『舞いあがれ!』福原遥が引き継いだ伝統と呪い 朝ドラで繰り返す“父の死”が意味するもの
連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『舞いあがれ!』(NHK総合)が折り返し地点を迎えた。
航空機のパイロットを目指していたヒロインの岩倉舞(福原遥)は航空学校を卒業し、ハカタエアライン株式会社に内定が決まる。しかし2008年のリーマンショックの影響で就職は1年後に延期。
実家に戻った舞は、父の浩太(高橋克典)が社長を務めるIWAKURAの工場をしばらく手伝うことになるが、IWAKURAもまたリーマンショックの煽りを受けて、経営危機に陥いる。会社を立て直すため、浩太は泣く泣くパートの従業員のリストラを断行。新規の仕事を獲得しなんとか立て直しの目処が立ちそうだったが、新規事業は立ち消え。心身ともに疲弊した浩太は倒れてしまい、病院に搬送され命を落とす。
母のめぐみ(永作博美)と共に工場を立て直すため、舞はハカタエアラインの内定を辞退してIWAKURAの営業として働くことになるのだが、リーマンショックの影響でIWAKURAの町工場が追い詰められていく姿を延々と描いた末に、父が急死するという辛い展開にショックを受けた。
朝ドラでは「父の死」が繰り返し描かれてきた。『まんぷく』や『なつぞら』のように、冒頭から父親を亡くしているケースも含めれば、ほとんどの作品で父との死別が描かれている。
ただ、『あまちゃん』、『まれ』、『ひよっこ』、『半分、青い。』、『おかえりモネ』といった1970年代以降の現代が舞台の朝ドラでは、父の死は描かれていない。だが、『まれ』と『ひよっこ』では、父親が行方不明になったことで家族が混乱する場面が描かれており、父親の不在や死が、朝ドラヒロインの大きな試練として描かれてきたことがよくわかる。
多少の違いはあるが、朝ドラヒロインの父は、一家の大黒柱として生活を支える経済的基盤であると同時に精神的支柱で、時代を遡るほど、その存在感は大きくなる。
だからこそ父親を失ったヒロインは人生の岐路に立たされることとなり、経済的・精神的に自立し、家族を守らなければならない。
『とと姉ちゃん』の常子(高畑充希)のように、女でありながら父として振る舞うことが求められるのだ。
『舞いあがれ!』では、IWKURAの次期社長となったのは母のめぐみだった。しかし、舞も工場を守るため営業職に就いて新しい取引先を開拓する一方、父の仕事を学び直していく。最終的に舞がパイロットの夢を断念するかどうかは今後の展開を観ないことにはわからないが、現時点で舞が選んだのは、自分の夢ではなく父の夢を引き継ぐことだった。