『ホイットニー・ヒューストン』にみる、音楽伝記映画製作のハードルの高さと課題

音楽伝記映画製作のハードルの高さと課題

 日本でも有名な映画『ボディガード』(1992年)における主題歌「I Will Always Love You」は全米シングルチャートで14週連続No.1を記録し、同作のサウンドトラックは最も売れたサウンドトラックとされている。他にもギネス記録やグラミー賞6冠など、亡くなった今でも多くのファンを抱え、様々なアーティストに影響を与え続けている伝説的歌姫ホイットニー・ヒューストンの伝記映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』が公開中だ。

 実はヒューストンの伝記映画企画は今回が初めてではなく、今までにも何度も企画されてきた。しかし、実現に至らなかったのは、ヒューストンの歌声を再現できる女優やアーティストが見つからなかったからだ。

 ヒューストンは「The Voice」と呼ばれるほど、その歌声は唯一無二であり、誰も到達できない領域。『アメリカン・アイドル』や『Xファクター』『ザ・ヴォイス』といったオーディション番組でヒューストンの曲を歌う参加者はいるが、高確率で酷評されるのがその証拠。ヒューストン役を見つけ出すのは簡単ではなかっただろう。

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 ヒューストンを演じているナオミ・アッキーは、顔こそヒューストンに似ていないし、劇中の歌声はヒューストンの歌声をシンクロさせている。だが、音源の存在していない部分はアッキー本人が歌っており、歌唱力としては申し分ない。Podcastのミュージカルドラマ「キューピット」でもその歌声を聴くことができるが、見事な声量の持ち主。音楽プロデューサーであり、今作にも参加しているクライヴ・デイヴィスも認める存在だ。

 一方で『ヴォイス・オブ・ラブ』(2020年)や、『ドリームガールズ』(2006年)や『スパークル』(2012年)といった、あくまで本人ではないという設定で押し切るパターンもあるが、それをしなかったのはヒューストンへのリスペクトと、きちんとした伝記映画を作りたかったという理由だろう。

 ところがヒューストンが亡くなった理由は薬物。全てを描こうとすると、最後はどうしても暗い展開になってしまう。もし今作がヒューストンの暗部を浮き彫りにする作品だったとしたら、かなりディープな人間ドラマとなったに違いないだろう。ドキュメンタリー映画の『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』(2018年)を観れば、その理由がわかる。

 今作は、そういった暗い話題を極力避けている。にもかかわらず、エンターテインメントに走り切ってもいないのだ。

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