『ボヘミアン・ラプソディ』見どころはライブシーンだけではない 物語で変わる音楽の響き

『ボヘミアン・ラプソディ』見どころはライブシーンだけではない 物語で変わる音楽の響き

 「なりたい自分になること」と「本当の自分を見つけること」――この2つは似ているようで異なっている。というか、その両者はときとして、互いに異なる「結果」を導き出すことだってあるだろう。その果てに「彼」が見つけ出した「答え」とは? 「自分が何者であるのかは自分自身が決めるのだ」。今もなお、世界中の人々に愛され聴かれ続けているイギリスの伝説的なロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』の物語的な面白さは――もっと言うならば、そのクライマックスに配置された10数分にわたるライブシーンが観る者の心にもたらせる感動は、そこに至るまでの「過程」にこそあるのだろう。

 「なりたい自分になること」。それは、これまで何度も映画の中で繰り返し描かれてきた、ある種普遍的なテーマだ。まだ何者でもない若者が、仲間と出会い、切磋琢磨しながら、何かを成し遂げていく物語。映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、1970年のロンドンからスタートする。空港で働きながら、バンドで歌うことを夢見る青年。ペルシャ系インド人の両親のもとに生まれた彼の名は、ファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)。自らを「フレディ」と称するその青年は、ライブハウスで演奏していたギタリストのブライアン・メイ(グウィリム・リー)とドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)に声を掛け、自身の類まれな歌唱力を披露しながら、彼らと共に新しいバンド「クイーン」を結成する。そこにベーシストのジョン・ディーコン(ジョゼフ・マゼロ)が加わり、本格的に活動を開始したクイーンは、程なくレコード会社の目に留まり、みるみる大成功を収めてゆくのだった。

 そう、本作の序盤では、移民の子である「ファルーク・バルサラ」が、世界を股にかけるロックスター「フレディ・マーキュリー」になるまでの物語が、駆け足で描かれていく。それと同時にフレディは、自らを受け入れてくれる“運命の女性”メアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)と出会い、愛を育んでいく。「君と一緒にいると、なりたいと思っていた自分になれるんだ」。そうささやきながら、メアリーにプロポーズするフレディの姿は、この映画の中でも、とりわけロマンチックなシーンと言えるだろう。

 しかしながら、当然物語はそこでは終わらない。人気バンドとなったクイーンは、1975年、より革新的なロックアルバムを作るため、ウェールズの片田舎にあるスタジオに閉じこもる。本作のタイトルにもなっているクイーンの代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」をはじめ、フレディがメアリーに捧げた「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」など、後世に残る名曲が数多く収録されたクイーンの傑作アルバム『オペラ座の夜』の制作だ。けれどもその制作の最中、ある出来事をきっかけに、フレディは自らのセクシャリティについて、にわかに煩悶し始めるのだった。その後、意を決してメアリーに、自分はバイセクシャルだと告白するフレディ。けれどもメアリーは、即座にこう答える。「いいえ、あなたはゲイよ」。なりたい自分になったはずのフレディは、そこでさらに煩悶する。「本当の自分とは何なのか」と。やがて、メアリーと距離を置き、その悩みを紛らわすようにパーティ三昧の日々を送るようになったフレディは、偶然出会った魅力的な男性に、こう告げられるのだった。「本当の自分を見つけたら会おう」。のちにフレディの生涯のパートナーとなる男性、ジム・ハットン(アーロン・マカスカー)だ。本当の自分とはーー他の人とは違う、自分自身について考え続けることは、やがて彼に深い孤独感をもたらせてゆく。ある意味「家族」とも言えるメンバー、スタッフだけれども、彼らにはそれぞれ妻がいて子どもがいる。本当の「家族」がいるのだ。しかし自分は……。それと同時に彼は、音楽面においても自らを見つめ直し、一旦バンドを離れ、ソロの道を選択するのだった。

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